ひょんなことはひょんと、ね。





志津は菓子折りを持って外朝を歩いていた。

菓子折り、といっても自分で作ったこし餡の詰まった饅頭なのだが、この前吏部に手伝いに来てくれた彼…棚夏櫂兎殿は自分の作った饅頭を気に入ってくれたので、いつも以上に気合を入れて作って詰めてきたという訳だ。それもこれも、棚夏殿と別れる際に、遊びに来てねと言われたからである。とりあえず、遊びにはまた今度にして、菓子折りだけを霄太師に預けるつもりでいる志津は、よく三師が集ってはお茶をしている室に向かっている最中であった。あまり足を運んだことのない場所にそれはあるので、少しだけ緊張してしまう。というか、かの高名な太師に会いに行くというだけで緊張が増してしまう。志津はふう、と息を吐いた。

「ここか……」

志津は扉の前に立った。そして扉を軽く叩く。

「吏部下官の要志津と申します。霄太師は在室でしょうか」

無音。志津は首を傾げた。今はここにはいないのだろうか。志津は扉に手をかけた。いつもなら返答もないのに扉を勝手に開ける事はしないのだが、何故か、その時は扉を開けなければいけないと体が動いたのだ。キィ、と扉の開く音が響く。志津は扉の向こうに視線をやった。半蔀の向こうから差し込む光があまりにも強すぎて、一瞬目を細める。

「……ほら、ひょんっと、ね?」

志津はその言葉に細めていた目をゆっくりと開いた。そして声の主を見て朗らかに笑う。

「菓子折り、持ってきましたよ、棚夏殿」

櫂兎はさぞかし嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。





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