短編 | ナノ






余程、どうしようもなかったのだろう。そして余程、助けてほしかったのだろう。

私はジ、と鏡を見つめる。
整った顔立ちの中に並ぶ切れ長な瞳にさらさらと絹糸のように揺れては額にかかる髪の毛。鼻は高くはないけどスッと細い線のように通っていて、唇はうすくも綺麗な形と色をしている。そっと頬に触れてみれば、ふに、と弾力のある若い肌。

私は26歳の、どこにでもいる会社員であった筈だ。映像関係の職に就き、いつもパソコンに向かい合ってカタカタとデスクワークをこなし、音声合成の為に機械に向かい合い耳をすませ、何度も何度も他の人と構成について話し合い、それなりに充実していた。

気付いたら、私は柳蓮二という男子中学生になっていた。

起きたら違う天井、違う家。家族も違ければ、とりまく環境も違う。一番違ったのは、自分自身。ただ、起きたら目尻が腫れぼったかった。

「柳、蓮二…」

どこのどいつだ、と最初は思った。
起きてぼんやりしていたら、あらゆる情報が、あらゆる柳蓮二の記憶が私の中に流れ込んできたのだ。そして、私が私でなくなる夜、柳蓮二が柳蓮二でなくなる夜。彼は二筋分、涙を流した。

「俺には助けることが叶わない」

そう呟き、意識を手放した彼。
多分、柳蓮二が助けられない人は、手からどんどんこぼれ落ちてしまうのは、部活の仲間達。一人倒れた事から始まり一人は自分を追い込み一人は途方にくれて泣いた。一人は部活に顔を出す頻度が減ったし一人は残酷にも世界を呪った。一人は自分に暗示をかけ、一人は優しさ故に心労が絶えず憔悴している。柳蓮二は、耐えられなかったのだ。仲間が、大切な人達が追い込まれていくのを見るのが。

甘いなあ、甘い。

確かに中学生には仲間が重い病に倒れてしまったのは辛かったのかもしれない。でも、何故そこまで、彼らは必死に、それこそ自分を追い込む程にのめり込んでいる。社会に出れば、これより重い現実は沢山あるというのに。

最初は、ただただ意味がわからなかった。

でも、中学生ながらにここまで必死になる彼らがどんな思いでいるのかは、気になる。

意識を手放す程追い込まれている柳蓮二は赤の他人ではあるが、元に戻るまでは、色々助けてやってもいいか。

とんだ上から目線だが、そう考えた瞬間に、柳蓮二のものである口から「ありがとう」と零れていた。私は「任せろ少年」と、呟いた。


(一度連載にしようとしたネタ)

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