短編 | ナノ






「あ、柳生くんがまた女の子に手を貸してる」

この友人の言葉に私は顔をあげた。
教室と廊下を隔てる壁に嵌め込まれた窓ガラスの向こうに、昨日初めて話したあの人がノートの束を手にして隣を歩く女の子と談笑しながら通りすぎていった。昨日話した時と何も変わらず爽やかで穏やかな笑みを微塵も崩さずに歩く姿は何もかも完璧に見えた。友人の話によれば柳生比呂士という人物はA組の生徒で、とても人望が厚く紳士的な人として有名らしい。聞いてもいないのにペラペラ喋る彼女はどこか別次元の人の話をしているような表情をするものだから、きっと彼は学内でも人気なのだろう。確かに、眼鏡でよくは見えないがその奥に潜む目は鋭く、だからといって冷たい印象は感じられない。輪郭はシュッとしていて鼻筋は通っており、所謂美形、というやつだ。その上女の子に紳士的ときたら、そりゃあ人気にもなるというものだ。

通りすぎてく彼をぼんやりと見ながら、私はそっと、お話が書いてあるノートに触れた。



* * *





次に見たのは購買だった。

昼休みのごった返す購買で、彼は銀髪が目立つ男の子と一緒にいた。彼は弁当の包みであろう荷物を持ち、銀髪の人は購買で買ったのだろう惣菜パンを片手にしていた。何故か無駄に目についたので、ゆっくりと彼らを目で追ってしまう。彼は銀髪の人を待っていたのだろう、銀髪の人が来たのを確認すると、歩き始めた。だが、銀髪の人はニヤリといたずらっ子のように笑うと、反対の手で持っていたミルクティーの缶を、彼のうなじに、当てた。

「っ!?!?」

きんきんに冷えていたのだろう缶を当てられた彼は、声にならない叫び声をあげ、文字通り、はねあがった。両肩をびくんとすくませ、いつもぴんと伸びている背を丸め、大きく瞠目しているのが此方から見えた。銀髪の人は面白そうにニヤニヤと笑っている。

「〜〜っ、仁王くん!!」
「プリッ」

その悪戯にまんまと嵌まってしまった彼は、うなじを瞬時に押さえると、真っ赤になった顔で銀髪の人の方を振り返った。その表情は先程見た穏やかで、爽やかで、大人びた表情ではなく、どこか子どもっぽくて、可愛らしい表情だ。眉を吊り上げながらも真っ赤に染まった顔で怒る彼が、先程友人が話していた人物像とは少し違っていた為、少しだけ、親近感が湧いた。

「なまえー!待たせてごめんね、行こう!」
「うん」

ちょっとだけ、彼…柳生比呂士という人物がわかった気がする。緩んだ口元に友人はやはり気付かないが、自分では、しっかりと笑っているのだとわかった。

あれから図書館で目が合えば会釈をして挨拶をしてくれる彼と、少しだけ、仲良くなりたいと思う自分がいる事も、わかった。

「待ちたまえ、仁王くん!!あなたという人は!!」
「油断せずに行こう、じゃよ〜」

そんな事を思っている私のそばを、彼らは走り抜けていった。


XX:見つめる。

短い。

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