短編 | ナノ






「やるじゃないかなまえさん」
「ありがとうございます」

目を回して倒れているハピナスをボールに戻しながら大石さんは楽しそうに此方を見た。私もライチュウに二連戦は酷かと考え、お疲れ様、と声をかけながらボールに戻す。ライチュウが少し疲れた様子でチュウ、と鳴いたのが聞こえ、労わるようにボールを撫でた。

「じゃあ俺のとっておきのポケモンで勝負だ!なまえさんに手加減はいらないみたいだからな」
「のぞむところです!」
「行け、ガルーラ!」
「頑張って、フライゴン!」

ガルル、と低く唸るような鳴き声と、喉を鳴らしたような特徴的な鳴き声が混じり合ってフィールドに響いた。ガルーラ。とても強いのは知っている。フライゴンのじめん技でゴリ押そうと思っていたのだが、ガルーラ相手にそう簡単にはいかないだろう。さて、どうしたものか。

「ガルーラ、ピヨピヨパンチだ!」
「飛んで避けて!そのままちょうおんぱ!」
「ガルーラ、おもいっきりなきごえ!」
「えっ、」

大石さんの声がフィールドに響いた瞬間に、ガルーラの雄叫びがフィールド内に木霊した。耳の奥にダイレクトに届いたそれは頭の中で波紋のように広がっていく。思わず私は両耳を両手で押さえてしまった。
本来なきごえという技はメロメロの下位互換といってもいい技だ。相手を魅了して油断させて攻撃力を下げる技。故にレベルが低いポケモンが使う事が多く、レベルの高いポケモンはそもそも力で押さえた方が安全かつ攻撃も出来る事から指示も出さない事が一般的である。しかし、こんな使い方をするとは、心底驚いた。なるほど、ちょうおんぱそのものを消し去る程の咆哮ならば、届かない。

「耳が…っ、ぐわんぐわんする…っ」
「きゅ、」
「フライゴン、怯まず気張って!」
「きゅ、!」
「こりゃまいったな、怯んでくれたら一石二鳥だったのに…」

冷や汗をかきながらもニヤリと笑いながら言った大石さんに私も冷や汗を垂らした。今まで色んなジムリーダーと戦ってきたが、こんな意外性をついてくる人は初めてだ。よくポケモンの事を考えて、見て、それでいて最善の方法を選んでくる。まだぐわんぐわんと鳴る頭を押さえながらフライゴンを見上げたら、フライゴンも少しだが、ふらふらしているようにみえる。治るまではあまり無理はさせられない。

「フライゴン、すなあらし!一時的でいいから、身を隠そう!」
「そうはさせない!いわおとしだ!」
「!あ、あなをほる!」

まさかフィールドを削ってまで岩を投げ飛ばすなんて。力強く投げ出されたそれはフィールドの天井まで届き、そして砕かれ、雪崩れてきた。それを躱すために、次は空中でなく地面に隠れる作戦なのだが、その間にかすっていたらしく、動きが鈍っているのが見えた。やばい。相当やばい。こちらは防戦一方ではないか。怒涛の攻撃になにか対抗する術はないものか。考えろ、考えろ。私がガルーラのトレーナーなら今、何をする。

ーーなまえの強みは考えることだ。自身、持ちなよ。

「…頑張るよ、レッド、グリーン。」
「あなを掘ったか…なら、じしんだ、ガルーラ!」
「そうくると思いました!フライゴン、その衝撃に合せてじならし!」
「!?なんの意味が…」

グオ、と一際大きい音がなった。地面がどんどんひび割れていく。

「ま、まさか!」
「フライゴン、そのまま、じわれ!!!」

凄まじい音がフィールドに鳴り響いた。じわれ、なんて技、もっと体重があって力強いポケモンしか体得出来ないのだが、じしんと同調させるように、そして足場を崩す為にじならしをすれば、フライゴンでもどうにかじわれを打つ事が出来る。周りで子供達が騒いでる声が耳に届いたが、構ってはいられない。

「いっけええ!!」
「ガ、ガルーラ!」

フィールドが崩れた。その中にガルーラの体が沈んでいく。

「フライゴン、脱出!」
「ガルーラ!踏ん張るんだ…!」

フライゴン特有の、美しい羽音が耳に届きホッとする。無事に脱出出来たらしい。無意識に握っていた拳をやんわりと解いた。

「ガルーラ!…っ、ばくれつパンチで辺りの岩を砕くんだ!」
「!?、まだ、粘るの…っ、わっ!」

砂塵が凄まじい音と共に舞った。フライゴンは目に張られている赤い膜により無事そうだが、私はモロに目に入ってしまった。これでは前がよく見えない。どうしよう。もしガルーラが這い上がってきてたら。こんな状態で的確な指示なんて出せない。お願い、そのまま倒れて…っ!

願うことしか出来ない自分に歯ぎしりしながらも、目を凝らす名前にフライゴンも臨戦態勢をとっている。

空いていた窓から、さぁ、と風が吹いた。

「……ガルーラ、戦闘不能!よって、この勝負、マサラタウンのなまえの勝ち!」

ざわ、とフィールド内がざわめいた。
風によって退けられた砂塵の奥には、瓦礫に埋もれるように目を回しているガルーラの姿があった。フライゴンは未だに空中で羽ばたいている。一目瞭然だった。

「勝った……」

紛れもなく、なまえは勝ったのだ。

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