私は今日で調査兵団を退団する。入団した時から、この日が来ることは分かっていた。私は上流階級の家に生まれた。ずっとお姫様のように大切に育てられ、そんな私が調査兵になりたいと言った時には両親ともに猛反対だった。だけど、私はどうしても調査兵になりたかった。少しでもいいから、世界を変えてみたかったのだ。結局、「お前に相応しい男が見付かるまで」との条件付きで私は調査兵になることを許された。そしてその日は訪れた。私の結婚相手が見付かったのだ。

荷物もまとめ終わった。この部屋とも今日でお別れだ。当たり前だった日常が、今日、終わる。みんなから貰った花束を持った。ふわりと花の匂いが花を霞める。大きく深呼吸をし、部屋を後にしようと扉に向かうと、ガチャリとドアが開いた。

「…リヴァイ」

最後に会いに来てくれたのか。会いたかったような、会いたくなかったような。きゅうっと胸が締め付けられた。

「もう行くのか」
「…うん」
「そうか」

少しの沈黙の後、力強く腕を掴まれ、ベッドに投げ出された。花束が宙を舞う。ぎしりとリヴァイが私の上に、覆い被さってきた。とても苦しげな表情を浮かべている。きっと今の私も、こんな表情を浮かべているに違いない。

「嫌なら、言え」

リヴァイの声が静かに響く。見つめ合ったまま、私は首を横に振った。それを合図に、リヴァイの唇が私の唇を塞いだ。にゅるりと侵入してくるリヴァイの舌に身体中に熱が駆け巡った。リヴァイの手がするりと服の下に滑り込み、体がびくんと跳ね上がる。そんな私を見て、リヴァイが愛しそうに口元を緩ませた。
―ああ、私は今からリヴァイに抱かれる。

私とリヴァイは愛し合っていた。だけど、別れの日が来ることを知っていた私達は、唇を重ねることも体を重ねることも、一度だってしたことがなかった。互いの温もりを知ってしまえば、きっと別れが辛くなる。私達は、感情を閉じ込めるしかなかったのだ。
なのに、

「…じゃあ、行くね」

何故、別れの日にリヴァイは私を抱いたのか。
何故、私は拒まなかったのか。

「アイル」

ベッドにリヴァイを残し、部屋を去ろうとした私を呼び止める声に振り向いた。

「これでもう、忘れられねぇだろ?」

リヴァイの言葉に、心臓がどくんと脈を打った。ただの一度きりのこの行為を、きっと私はこの先ずっと思い出して行くだろう。リヴァイがどうやって私に触れたのか、唇の感触も肌と肌がぶつかり合う感覚も、忘れないように、何度も、何度も、繰り返し思い出す。きっとそれは、私だけじゃなく、リヴァイもだ。

もしかしたらリヴァイも私も最初から、こうなることを頭の何処かで予想していたのかもしれない。

「…愛してるよ」
「ああ、俺もだ」

もう2度と会うことはないだろう。だけど、別れが辛いとは思わなかった。私の中にリヴァイが溶け込んだのだ。私はもうそれだけで生きていける。



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