「ここにいたのか」

静かな夜、壁の上から足をぷらぷらさせて明かり一つ無い壁外をじっと眺めていた。

「…何か用?」
「別に」
「じゃあ、座ったら?」

ぽんぽんと隣を叩くとリヴァイが腰を降ろした。
私と同じ様に足をぷらぷらさせる姿がなんとなく面白い。

「明日からまた壁外だね」
「ああ」
「今回はどれくらい犠牲になるんだろうね」
「…」
「その中に、私は入ってるのかなあ」

ぼんやりと壁外を眺めながら口走った私にリヴァイの拳が飛んできた。

「いたっ!」
「死んだら、許さねぇぞ」

低く呟きながら、私を睨み付けるリヴァイ。
分かってるよ。私は、巨人を絶滅させるまで、どんなことがあっても生き延びる。
うん、ともう一度光の無い壁外に視線を移した。

「リヴァイも死んじゃ駄目だよ」
「死なねぇよ」

絶対に、と無意識にぎりっと握られた拳。
なんとなく、リヴァイの拳の上にそっと手を添えてみた。
驚いた表情で私を見るリヴァイの顔が、月の光に照らされてはっきりと見える。

「…ぷっ。変な顔」
「てめぇにだけは言われたくねぇよ」

ちっと舌打ちをし、顔を逸らされたが、私の手を振り払うことはしなかった。

(この綺麗な手も、明日には血で染まるんだろうな…)

それは、なんて悲しいことなのだろう。
この世界に巨人が存在しなかったら、愛する人を守る為だけに使われていたかもしれないのに。

「…リヴァイの手、すべすべしてて気持ちいいね」
「…そういえば、巨人の血には保湿効果があるってハンジが言ってたな」
「なにそれキモい」

リヴァイはたまに冗談を言うことがある。
くすくす笑っていると、するりと私の手から逃げられた。
そして、私の手に重なるリヴァイの手。
思わず、心臓が脈を打った。

「…不細工な顔だな」

驚いた表情を浮かべる私に、ふっと息を漏らし笑うリヴァイ。
月の光に照らされて、いつにも増して綺麗に見えた。

「あーもー、不覚…」

俯きながら、ぼそりと呟く。
少しだけ熱を帯びた私の顔が逆光を浴びて見えないことを祈った。



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