兵長と向い合わせで書類を纏めながらも、さっきから視線は兵長の唇に集中していた。
もう付き合って1ヶ月。
いくらなんでもキスくらいはしてくれたっていいんじゃないか、とぷにぷにと自分の唇を無意識にいじっていた。

「いてぇのか?」
「え?」
「さっきから、唇いじってんだろうが」

兵長に指摘され、ハッと自分の手が唇に伸びていたことに気付いた。
慌てて手を引っ込める私を怪訝な顔で見つめてくる兵長に、気まずくてあからさまに目を逸らしてしまった。
意識してること、気付かれちゃったかな…。

「…まあいい。書類も大体片付いた。帰っていいぞ」
「…は、はい」

なんだ…。兵長、気付いてないみたい。
帰っていいぞと言われ、気付いて欲しかったような、欲しくなかったような微妙な気持ちに陥る。
はあ、と小さく溜め息を吐きながらドアノブに手を掛けた。

「アイル」

名前を呼ばれ、振り向いた瞬間、目の前が暗くなった。
そして唇に伝わる柔らかい感触。

「…阿呆な顔」

ぽかんとする私を見て、兵長がボソッと呟いた。

(今、キス…された?)

やっとで状況を理解し、みるみるうちに顔に熱が集中していく。
嬉しさよりも少しだけ恥ずかしさが上回り、思わず俯いてしまった。

「なんで俯いてる」
「だって、恥ずかしくて…」
「誘ったのはてめぇだろうが」
「え!誘ってなんか…っ!」

バッと顔を上げた瞬間に、2度目のキス。
ぐっと腕を押さえ付けられ、身動きが取れない。
私の舌を絡めとる、兵長の激しいキスに今にも腰が砕けてしまいそうになった。

(激しい…けど、優しい)

ああ、もう。
私、このまま窒息死してもいいかも。



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