キツイ香水の残り香が私を苛立たせる。
乱暴に窓を開け、新鮮な空気を肺いっぱいに取り入れた。

「兵長、起きてください」

いつからだっただろう。
「明日から起こしに来い」と兵長から頼まれたのは。
あまり他人を部屋に入れたがらない兵長に、毎朝起こしに来いと頼まれた私は少しだけ優越感を感じていた。

が、今になってはただの嫌がらせにしか思えない。
私は鼻にこびりついた匂いを早く消したくて、窓から顔を出した。
ふと視界に入った露出の多い服を着た女の後ろ姿。
間違いなくこの匂いの犯人で、見たくないものを見てしまった、と顔をしかめた。

嫌でも想像してしまうじゃないか。
兵長は、昨日の夜、この女と寝たのかと。

「いい加減に、起きてください」

自然と声が低くなる。
兵長が誰と寝ようが私には関係無い。
頭では分かっていても、この苛立ちは止められなかった。

色気たっぷりの唸り声を上げながら、寝返りをする兵長の瞼が少しだけ開く。
確実に目が合ったのにも関わらず、兵長の瞼が再び閉じた。ふざけてる。

「…兵長!」

布団を剥がそうと手を伸ばした。
瞬間、手首を掴まれ、それを阻止される。

「…もう少し寝かせろ」

普段は絶対に出すことの無い低く甘えた声と、兵長の掌の感触に胸が鳴った。
それと同時に、この手であの女の身体を撫で回したのかと嫉妬で体がカアッと熱くなった。

「…兵長。女の趣味悪すぎです」

皮肉たっぷりに口に出すと閉じていた瞼がゆっくりと開いた。
吸い込まれそうな漆黒の瞳。
その瞳に映る私。

「…抱ければ別に誰でもいい」
「じゃあ、私でも?」

口走ってしまったことに後悔はしていない。
そもそも兵長は、私の気持ちに気付いているのだ。
私に起こせと頼んでいるのも、兵長は私の反応を楽しむ為。
最低な男。分かってる。
でも好きだった。

「ああ」

特に顔色も変えず、兵長は呟いた。
少しの沈黙の後、力強く私を引き寄せ、唇が重なる。
兵長から、ふわりとあの女の匂いが漂ってきた。
私はきつく目を閉じ、息を止めた。



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