「あ、エレン!」

休憩中、遠くからアイルがとびきりの笑顔で手をぶんぶん振ってきた。
訓練兵の頃は毎日一緒にいたが、リヴァイ班に入ってからはアイルとは喋る所か姿を見ることもなかった。
久し振りだな、と自然と顔が緩んでしまったが、隣には兵長がいる。
慌てて口元をきゅっと結び、控えめに手を振り返した。

「なんだ?お前の女か?」
「ち、ちがいます!」

アイルに対して特別な感情を抱いていたが、彼女でもなんでもない。
否定すると、兵長が、ふぅんと小さく唸った。

「…結構可愛い顔してるな」
「え?アイルがですか?」
「アイルっていうのか」

アイルを遠くに見る兵長に心臓がどくん、と鳴った。まさか、兵長、アイルのこと気に入ったりしてないよな…?

「で、でもあいつ、顔は少し可愛いかもしれないですけど、がさつだし馬鹿力だし、俺なんて格闘術の訓練中何度ぶん投げられたか数えきれません!」
「ほぅ…。強い女は好みだ」
「えっ!?」

目を見開き、兵長を見る。
やべぇ、嘘だろ…。
ライバルが兵長って、俺、勝てる気がしねぇ…。
額からたらりと冷や汗が流れる。
そんな俺を見て、兵長はふっと吹き出した。

「嘘だ、馬鹿」

…え?嘘?
珍しく口角を上げる兵長に、呆然と立ち尽くす。

(…畜生、やられた)

顔が一気に熱くなる。
兵長は、俺の反応を見て楽しんでいただけだった。

「たらたらしてると他の奴らに取られるぞ」

そう言い残し、スタスタ歩いていく兵長。
アイルに視線を移せば、先輩達と楽しそうに笑っている姿が目に入った。

(…余計なお世話ですよ)

きゅっと拳を握り締め、アイルの元に駆け寄る。

「エレン!」

俺に気付いたアイルの表情が一際パアッと明るくなり、少しだけ安心している自分がいた。



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