「ほら、」

真っ赤に腫れ上がった頬。
食堂の外で不貞腐れているジャンに冷たいタオルを差し出すと、何も言わずバッと奪い取られた。

「...ありがとうくらい言ったら?」
「...うるせぇな」

苛々しながら頬を冷やすジャンに小さく溜め息を吐いた。
エレンとジャンの喧嘩は日常茶飯事だけど、今日はジャンの一方的な嫉妬心から起こった喧嘩。
ミカサがエレンの頬についたパンくずを取ってあげている所を見て、「ミカサの子供かよ」と陰口を叩いたことから始まった。
そんなことを言われたら、エレンだって黙っちゃいない。
殴り合いの喧嘩が始まり、見ての通りだ。

「八つ当たりは見苦しいよ、ジャン」
「...八つ当たり?」

ジャンの眉がぴくりと動く。
本当に分かりやすいなぁ。
動揺しているのがバレバレ。

「私には、エレンが羨ましいーって顔にしか見えなかったけど」
「ばっ...!ばっかじゃねえの!?」

んなわけあるか!とタオルが飛んで来た。
そんなに真っ赤になるくらい、ミカサのことが好きなんだね。
地面に落ちたタオルを拾い、綺麗な面に折り返す。
ジャンの火照った頬にそっとタオルを添えた。

「...っ!?」
「ミカサじゃなくて、ごめんね」

言葉にすると、思った以上に切ない。
冗談混じりに笑おうとした口元が少し引き攣ってしまった。
ねえ、ジャン。なんで私が冷たいタオルを持って、追い掛けて来たか分かる?
ジャンがミカサを見ているように、私だってジャンを見ているんだよ。

「...もう、大丈夫だ!」

私の手を払い除け、ジャンが去って行く。
ズキズキと心臓が疼くことにも、もう慣れた。
どんなに想い続けても、やっぱり無駄なのかなぁ。
ジャンの後ろ姿を目で追いながら、生温くなったタオルを力無く握り締めた。






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