「リヴァイ、報告書はまだかってエルヴィンが言ってたよ」
「...うるせぇな。今やってる」
「早くしなよ。期限は昨日までだよ?」
「...黙れ、クソ眼鏡。おい、」

アイル、と無意識に呼ぼうとして、ハッとした。
あいつはもういないというのに、染み付いた日常というものは、怖いものだ。

「...リヴァイ、」

決して、あいつの死を受け入れてない訳じゃない。
だから、そんな瞳で俺を見つめるな。

「...いつもなら、アイルが手伝ってくれたのにね」
「...」
「リヴァイを甘やかしちゃ駄目!って言っても聞かなくて、」
「...おい、」
「私がいないと駄目なんですよーって、いつもニコニコ笑ってさ、」
「...おい、ハンジ。それ以上、何も言うな」

死んだ人間の昔話をしたところで、何になる。
自然と強くなった声に、ハンジはきゅっと口を結んだ。
真剣な眼差しが、俺を射抜く。

「リヴァイ。私達は、仲間だよ」
「...だから、なんだ」
「あんたが苦しければ手を差し伸べる。辛ければ、傍にいる」
「...意味がわかんねぇ、...っ!?」

突然のことに、目を見開く。
ハンジが抱き締めてきた。
息が出来ないほど、キツく。

「私達の前では、我慢するなって言ってんだよ、」

...我慢だと?
俺は、我慢なんかしていない。
また一人、仲間を失っただけだ。
いつものことだろうが。
ただ、アイルが死んでから不便なことが多くなっただけだ。
仕事に追われた時に、手伝ってくれる奴がいない。
特別早い朝、起こしに来てくれる奴がいない。
疲れてソファーにそのまま眠ってしまった時、毛布を掛けてくれる奴がいない。
あいつが死んだせいで、この間寝坊した。寒くて風邪を引いた。
今だって、そうだ。
アイルが手伝ってくれないせいで、仕事が終わらねぇ。
...全部、アイルのせいだ。

「...ハッ、クソが、」

じわじわと胸が熱くなっていく。
なるべくアイルのことを思い出さないようにしてきたのは、失ってから気付くことの多さについていけなかったからだ。
あいつの存在を消さなければ、変わり過ぎた日常を過ごすことが出来なかった。
なのに、ふとした時にアイルの名を口に出してしまいそうになる。
ごく自然に。当たり前のように。
「なんですか?」とふわりと笑うアイルの顔が頭に浮かんだ。
優しく細めた目。浮き上がるえくぼ。
...ああ、そうか。俺は、

「...ハンジ」
「ん?」
「...もう少しだけ、このままでいてくれ」

アイルを愛していたんだ。
小刻みに震える背中を、ハンジが優しく撫でる。
ハンジの肩に顔を押し付ければ、涙がじわりと滲んだ。






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