リヴァイと2人、提出期限ギリギリの報告書に追われていた。喋っている暇もなく、カリカリと夢中でペンを走らせる。が、突如そこに混じった甲高い声に私とリヴァイの手がぴたりと止まった。

『ぁっ…ぁ、』

さーっと血の気が引いた気がした。壁から漏れてくる淫らな声。この声の犯人は、言うまでもない。ハンジだ。宿舎の壁は薄く、隣の部屋のハンジの最中の声が聞こえることは日常茶飯事だった。ああ、今日もお盛んですね、と特に気にもせず過ごしてきたが、今日は私の部屋でリヴァイと報告書を作成する予定があったため、「今日は我慢してね!」とハンジに念を押しておいたのだ。「分かった分かった」とにやにやするハンジに少し嫌な予感はしたけど、まさか本当にヤるとは…。向かい側に座るリヴァイの顔をちらりと伺えば、見たこともないくらい苛ついた表情を浮かべている。あー。眉間の皺が凄いことになっちゃってるよ。私の隣の部屋がハンジだということは、リヴァイも当然知っている。

『あー…っ!いいっ!いいよっ、そこっ!もっと、っ…!』

どんだけ激しいんだよ…!と心の中でつっこみを入れたくなる程の盛り上がりだ。いつもはそんなこと言わない癖に、余程イイのか、それとも単なる嫌がらせか。もし後者だとしたら…いや、もうそんなことどっちだっていい。私とリヴァイの間に流れる気まずい空気を誰かなんとかしてくれ。とりあえず聞こえない振りを装い、無理矢理意識を書類に集中させたが、向かい側に座るリヴァイがガタンと荒々しく立ち上がったのでびくりと顔を上げた。壁の方へとカツカツ歩いていくリヴァイの後ろ姿を目で追う。

ガンッ!ガンッ!

え、ちょっと待て。無言で壁を蹴り続けるリヴァイに慌てて立ち上がる。

「リヴァイ…!何してんの!?」
「…変態クソ眼鏡が!」
「止めなって!!!!!」

壁に穴が開きそうなくらい勢いのある蹴りに冷や汗が流れる。こんなことしたら、ハンジはますます調子に乗る。そういう奴だ。リヴァイの部屋に移動しよう!と、壁を蹴り続けるリヴァイの腕をギリギリと引っ張る。私の予想通り、ハンジの声はどんどん激しさを増しているように思えた。リヴァイも負けずと蹴り続ける。ちょっとまじで穴開く…!構うだけ無駄だって!とリヴァイに声を荒げれば、うるせぇ、と突き飛ばされた。後ろにあったベッドにドサッと倒れ込む。

「いったあ…、ちょっとリヴァイ!何すんの!?」

眉間に皺を寄せながら、上半身を起こそうとした。瞬間、リヴァイが私に覆い被さってくる。突然のことに一瞬頭が真っ白になった。

「ちょ…、リ、リヴァイ!?」
「あの変態女より、でかい声出せ」

分かったな?と私を見下ろしてくるリヴァイに目を丸くした。ちょ、待って。それってどういう意味?ごくりと唾を飲み込む。胸元のボタンを器用にぷちぷちと外していくリヴァイに、かっと顔が熱くなった。嘘でしょ…!!!??リヴァイの手を、慌てて押さえる。

「いや、いやいやいやいや!!!!!嘘でしょ!!??冗談止めてよ!!!!」
「オイ、手離せ」
「待ってよ!!!何この展開!?おかしいって!!!!!」
「うるせぇ」

私を黙らせるためか、リヴァイが噛み付くように唇を重ねてきた。薄く開いた瞼からリヴァイの黒い瞳が私を捉えている。やだ…!反射的にぎゅっと目を瞑った。抵抗しようと必死に胸元を押してみたが、リヴァイはびくともしない。私の口内をいやらしく動き回るリヴァイの舌使いに、背中がぞくぞくと粟立つ。ああ、もう、力が入らない。

「ふ…っ、ぁあっ!」

やっとで唇が離れたかと思えば、首筋にリヴァイが顔を埋めてきた。ぬるぬると首筋を這う、生暖かい舌。胸元を撫で回す大きい手。思わず高い声を上げてしまい、慌てて口元を押さえた。そんな私を、見たこともないくらい満足そうな笑みを浮かべながら、リヴァイが見下ろしてくる。

「その調子だ」

口元を覆った掌を掴まれ、ベッドに押さえ付けられた。もうやだ…!何でハンジなんかに対抗心燃やしてんのよ…!精一杯睨みをきかせたつもりが、もはや眉にも力が入らない。荒くなる呼吸。我慢しようとも漏れる声。視界が涙でうっすらとぼやける中、リヴァイのぎらついた瞳と吊り上がった口許だけは、はっきり見えた気がした。



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