「今日で一年ですね」

少し照れ臭そうに、アイルが笑った。テーブルの上には、一年前の今日、アイルが俺に初めて作ってくれた料理が並んでいる。

「一年前より、見た目が良いな」
「…ケンカ売ってます?」

せっかく良い雰囲気だったのに、とアイルが眉間に皺を寄せた。そんなアイルに少し口端を上げながら椅子に腰を下ろせば、アイルも口元を緩ませながら席についた。

「さ、食べましょうか」

いただきます、とアイルが手を合わせたのを合図にスープを口に運ぶ。一年前は、飲めたもんじゃなかったスープ。「不味い」とはっきり言い切った俺に対して、「じゃあ兵長が作ってください!」と逆ギレしたアイルが懐かしい。

料理の感想を聞きたいのか、俺の表情をニヤニヤとうかがってくるアイルから目を逸らし、パンに手を伸ばした。焼きたての香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

「良い感じに焼けてます?」
「ああ。前みたいにパサパサしてねぇ」
「一言多いです!美味しいですか?」
「…ああ」
「ああ、じゃなくて…!ちゃんと美味しいって言って欲しいです」

納得がいかないのかアイルが頬を膨らませた。俺はあまり言葉にすることが得意ではない。しかもこいつは褒めたら褒めたで調子に乗る性格だ。ペトラなんかに「兵長に褒められちゃったー!」なんて自慢している様子が嫌でも目に浮かぶ。…まあでも、今日くらいは、

「なあ、アイル」
「何ですか?」
「そろそろ、兵長は止めろ。敬語も使うな」

それなら褒めてやっても良いぞ、と言ってみれば、きょとんとするアイル。付き合い始めてから、今日で1年。未だかつて、アイルは俺の名前を呼ぶ処か、タメ口さえきいたことがなかった。

「い、いまさらですか…!?」
「今更もクソもねぇ。いい加減2人でいる時くらい、兵長は止めろ」
「なんか、癖になっちゃってて…っていうか兵長!話が変わってますよ…!」
「変わってないだろ」
「私は美味しいよって言ってもらいたいだけなのに…!」
「だから、名前で呼べば褒めてやるって言ってんだろ」

顔を真っ赤にしながら、ふるふると震えているアイル。1年も経っているのに、まるで付き合いたてかのような反応が面白い。何回も体を重ねているのに、名前を呼ぶくらいどうってことねぇだろうが。

「…リ、リヴァイ。美味しい?」

瞳を潤ませながら、照れ臭そうにぼそぼそと口元を動かすアイル。始めて呼ばれた自分の名前に、聞き慣れないせいか自然と口角が上がった。

「不味い」
「え、ええぇ!ちょっと、兵長!この流れで不味いはないですよ…!」
「兵長じゃねぇ。敬語使うなバカ」
「あ。やば」

アイルが慌てて口元を押さえる。目を合わせ、2人で小さく笑い合った。



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