「今日からよろしくお願いします」

やっとこの日が来たと、高鳴る心臓を落ち着け、右手を差し出した。が、その手が握り返されることは無かった。ついでに言えば、目も合わせてくれなかった。

「…リヴァイ?」
「…」
「ねえ、リヴァ、」
「名前で呼ぶな、馬鹿野郎」

何を今さら、私達の仲じゃない。口を開こうとした瞬間、鋭く睨まれ、きゅっと口を結んだ。リヴァイが兵士になってから、もう何年も経つ。私はリヴァイを追い掛けて、調査兵になった。リヴァイのいない地下街での生活は耐えられなかったのだ。

「…もしかして、私が調査兵になったこと怒ってるの?」
「…」
「…ねえ、リヴァ「なんでだ…っ!」

胸ぐらを掴まれ、壁に追いやられた。ドンッと背中に鈍い痛みが走る。

「…なんで、追いかけてきた!?」

凄まじい剣幕で迫るリヴァイに体が強張った。本当は聞かなくても分かってるんでしょ?私はただ、リヴァイに会いたかっただけなの。

「…リヴァイのいない地下街なんて、生き地獄だよ」

ぽつりと溢したその言葉に、リヴァイが掌の力を強めた。

「…俺が、なんでお前に何も言わず、地下街を離れたか…分かってるのか!?」

声を張り上げるリヴァイに私は唇を噛み締めた。そんなの分かってるよ。リヴァイの考えてることなんて、全部分かってるよ。だけど、

「地下街にいれば、例え生き地獄だとしても、命を失うことはない」
「…でも、」
「壁外は生き地獄どころじゃない。本物の地獄だ。そして、いつ命を落としてもおかしくない」

それでも私はリヴァイの隣に居たかった。ぽろりと涙が零れ落ちる。まるで世界の終わりを見たかのような、そんな瞳で私を見つめないで。

「…お願いだから、戻ってくれ」

リヴァイがどれほど私のことを大切に思ってくれているか痛いほど分かる。何も言わず、置いて行ったのも私を守るためだと理解している。だけど、私は戻らない。戻りたくない。ねえ、リヴァイ。あの暗い地下街で一生を終えるより、私はあなたの隣で朽ちていきたい。それが例え、巨人の口の中であろうとも。

私の気持ち、分かってくれる?
力無く抱き締めてくるリヴァイの体を、ぎゅっときつく抱き締め返した。



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