ミカサの黒髪は女の私でも見惚れるほど綺麗だ。
ジャンが「触りてぇ」と無意識に呟いてしまう気持ちも良く分かる。

だけど、

「ジャン、変態」
「…っ!?」

後ろから呆れた顔で呟けば、ジャンが勢い良く振り向いた。
目をまん丸にして、顔を真っ赤にしている。

「…触ってくれば?」
「ばっ…!んなこと出来る分けねぇだろ!!!!」

大きな声を上げて、あたふたするジャンが悔しいけど可愛いと思った。
ミカサが羨ましい。
私ではこんなにジャンの表情をくるくる変えることなんてできないから。
むかむかと腹の底から沸き上がる感情は、間違いなく嫉妬。
だから、ほんの少しだけ意地悪したくなった。

「…ミカサの髪ってね、すっごいサラサラなんだよ」
「…触ったことあるのか!?」
「女の子同士だもん。普通、普通」

よっぽど羨ましいのか、ジャンの体がわなわなと震えている。
ざまあみろ、と内心思いながらジャンを通り過ぎた。

「…一日でいいから、アイルになりてぇ」

背後から盛大な溜め息と共に呟かれたジャンの言葉にカッと胸が熱くなる。
そんなにミカサが好きなのか。
振り向けば肩をがっくり落としているジャンの姿。
正直、私の方ががっくりだよ。
胸がずきずきと痛むのをぎゅっと堪えた。
何がなんでも、ジャンに悟られる訳にはいかない。
だって、悔しいもん。

「…きっしょ!ジャン、きっしょ!!」
「うるせぇな!ほっとけよ!」
「ねー、ライナー!ちょっと聞いてー!!!!!」
「お、おい、アイル!!てめぇ、待て!!!!!」

慌てて追い掛けてくるジャンに追い付かれないように、ライナーの元へと走る。
こんな風にふざけ合える関係も嫌ではないけど、いつになったら、ジャンは私のことを女の子として見てくれるんだろう、なんて考えていたら、目の前がじんわりとぼやけてきた。
走りながら、ぐしぐしと目を擦る。
もし、ライナーにつっこまれたら、渇いた風が目に滲みたせいにしよう。



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