玄関先で、アルコール混じりの溜め息が漏れた。

門限は0時。
だが、そんな時間、とうに過ぎていた。
遅くなるとの一報すら入れていない。


(あいつ、怒ってなければいいが…)


カチャッと静かにドアを開ける。
リビングの椅子に座り、俯せになって眠りにつくナマエが見えた。
足音を立てないようにそっと近付く。

テーブルの上には、少ない食材でも工夫を凝らした料理が並んでいた。
すっかり冷めてしまったそれを、一口つまみながらナマエを見下ろす。


(…悪いことをした)


すやすやと寝息を立てるナマエの頭を優しく撫でた。
ベッドへ運ぼうと抱き上げようとした瞬間、料理の横に置かれたメモが目に付く。


『帰ったら起こして』


語尾には怒りマークが描かれている。
…どうやら、俺の願いは虚しく、ナマエは完全に怒っている様子だ。
出来れば起こしたくはないが、仕方無くナマエの肩を揺さぶった。


「ナマエ」
「…んー」
「悪い。今、帰った」
「…ぅん、今何時?」
「…2時だ」


瞬間、寝惚けていた筈のナマエがカッと目を見開く。


「は!?2時!?」


バッ、と体を起こし、時計を確認するナマエ。


「…リヴァイ。ちょっと座りなさい」


いつもより明らかに低い声色。
向かい側を指差すナマエの言う通りに腰を降ろした。


「リヴァイ。門限は?」
「…0時だ」
「だよね?もし過ぎるような場合は?」
「…必ず連絡を入れる」


ナマエが頭を抱え、はぁーと深く息を吐いた。


「なんでちゃんと分かってるのに、出来ないのかなあ!?」


ご飯用意して、リヴァイの帰りを待ってるこっちの身にもなってよ!と怒り狂うナマエに何も言えず、黙り込む。


「飲んできたの?」
「…ああ」
「もう…ほんとムカつく!」
「…悪かった」
「だめ。許さない!」


明日から夜ご飯、絶対作らないからね!とナマエがガタンと立ち上がり、寝室へと消えていった。


(…ハッ、嘘だろ)


料理なんてした試しがないこの俺に作れと?
…だが、ナマエは、仕事をこなしながらも毎日文句も言わずに家事全般をこなしてくれている。
はぁ、と溜め息を吐きながら頭を掻いた。


…とりあえず、作るしかねぇ。





「…ペトラ。シチューの作り方を教えて欲しいんだが」
「いいですけど、急にどうしたんですか?」
「…ちょっとな(言えるわけねぇだろ)」
「彼女さんに作ってあげるんですか?(ニヤニヤ)」
「ペトラ。少し、黙れ」
「す、すいません!(調子に乗りすぎた!)」




ペトラに教えてもらったレシピに自己流のアレンジを加えたシチュー。
ナマエはそのシチューを見た瞬間、これ食べれるの?といわんばかりの表情を浮かべた。
恐る恐る、一口啜る。


「…ぅ、まずっ!どうやったらこんな味になるのよ!」


駄目だ!やっぱりリヴァイには任せられない!と声を上げるナマエ。
そんな筈はない、と一口啜ってみたが、あまりのまずさに愕然とした。


「…オイ、ナマエ。もう食うな」


あまりにも酷すぎる味に、処分しようとナマエの皿に手を掛けた。
が、ナマエは皿は掴んで離さない。


「…折角リヴァイが作ったんだから、まずくても食べるよ」


そう言って、まずい!と言いながらも食べ進めるナマエを見て、心の底から抱きしめたくなった。


「ぎゃ!急になに!?」
「昨日は悪かった」


そう呟きながらきつく抱きしめれば、「…今度からは気をつけてね」とナマエが顔を緩ませた。





部下たちは誰も知らないリヴァイの一面。
愛するナマエにだけは、なかなか頭が上がらないリヴァイでした。



ぬしさんへ^^





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