*ぬしさんへ*



「ベルトルトー!本返しに来たよー!」

男子寮のドアが勢いよくバターンと開いたと思えば、本を片手にニコニコと佇むアイルの姿。
わいわいと話し声が飛び交っていた部屋の中が一瞬にして静まり返る。

「なによ?」

アイルが不思議そうに首をかしげた。
男女間での寮の行き来は禁止されている。
…のにも関わらず、まるで自分の部屋に帰って来たかのようなアイルにみんなが固まるのも当たり前だった。
しかも、


キャミソールにショートパンツという、15歳の思春期真っ盛りの男子には刺激が強い格好で。


「アイル、ちょっと来て!」

ベルトルトが青ざめた顔で、アイルの元へ駆け寄った。

「わ!なに、」
「いいから!」

アイルの腕を引っ張り、無理矢理廊下へと出た。
後ろから、同期達の“あぁ〜”と名残惜しそうな声が漏れる。

「ベル、痛いよー」
「…アイル、」
「なーに?」
「…わざわざ、寮に忍び込むことないだろ!あー、もう!しかもそんな格好で!」

珍しく声を荒げるベルトルトにアイルが目をぱちくりさせた。

「ベル、ぶ!」
「とりあえず、これ着て。送って行くから帰るよ」

自分の着ていたTシャツを脱ぎ、アイルの頭にズボッと被せる。

「ぷはっ…って、ベル!上半身裸じゃん!」
「アイルの格好よりはマシだよ」
「うっ…そのまま女子寮に行くの?」
「アイルみたいに、部屋までは入らないよ」
「うっ、」

皮肉たっぷりに言われ、言葉に詰まるアイル。

「…もしかして、怒ってる?」
「怒ってないよ」
「うそだ!怒ってるよ!」
「…怒ってないって」

アイルの手をぎゅっと握り締め、女子寮に向かいずんずんと足を進める。

「ねー、ごめんー」

機嫌を取ろうと握り締められた手をぶらぶらと揺らした。
しかし、ベルトルトはいまだにムスッとした表情を浮かべている。
そんな彼を見て、“ベルトルトを怒らせると大変なことになる”と初めて気付いたアイルでした。



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