「浮気したら別れるからね」
「するわけねぇだろ」

リヴァイが浮気なんてするはずがないとは思いながらも、その言葉が聞きたいがために何度も私は同じ台詞を繰り返してきた。
私には自信があった。
リヴァイには浮気をする時間も余裕もないし、何よりもリヴァイは私を愛している。
リヴァイは他の男達とは違う。
他の女になびく筈がない、と。
リヴァイは不器用な男だ。
愛の言葉を口に出すことなんてなかったが、リヴァイの愛は私にしっかりと伝わってきていた。
みんなの目を盗んで唇を重ねたり、抱き締められたり。
この愛が永遠に続くとそう思っていた。

本当に、そう思っていた。

「…なにしてるの?」

私の姿を見るなり、バツが悪そうにリヴァイのベッドから出ていく一人の女。
引き止めようにも体がまったく動かなかった。
バタンと扉が閉まる音に小さく溜め息を吐きながら、前髪をかきあげるリヴァイ。
上半身は裸だった。
なにしてるの?と聞くまでもなかった。答えはただ一つだけしかない。

リヴァイは、私以外の女と、寝たのだ。

何度も2人で愛を交わしてきたベッドで、リヴァイは他の女と寝た。
吐き気が込み上げてきた。
それが嫌悪からくるものなのか怒りからくるものなのかは分からなかった。

「…アイル、」
「言い訳は聞きたくない」

声が震えた。
声だけじゃない。
全身がカタカタと震えた。
どうしてどうしてどうして、と頭の中でぐるぐると回る。
きっとリヴァイは「愛してるのはお前だけだ」と言うだろう。
ただ魔が差しただけだ、と。
だけどもう、今さらだ。
私は見てしまったのだ。
どんな愛の台詞を並べられても、私の心が揺れ動くことはない。

「…浮気したら、別れるって言ったよね?」
「…ああ」
「さようなら」

部屋を勢い良く飛び出す。
後ろから声を張り上げて私を呼ぶリヴァイに涙が溢れた。
リヴァイがあんなにも必死に私を呼んだことはなかったから。
少しだけ、心が揺れた。
でももう遅い。
今さら、だ。
きっとリヴァイと関係を続けていても、他の女に触れた指、重ねた唇、とリヴァイの全てがそう見えてくるに違いなかった。
たった一度の過ちだと言ってしまえばそれまでだが、私にはその過ちを受け止められるほどの心は持ち合わせていない。

バタバタと後ろから追い掛けてくる足音が聞こえる。
私は一切振り返らず、廊下を駆け抜けた。



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