奇跡が起きた。
調査兵になる前からずっとずっと憧れていたリヴァイ兵長が今、私の隣に座っている。
耳をすませば呼吸も聞こえるくらいの距離に心臓の鼓動が加速していく。
どうしよう。飛び上がりたいくらい嬉しい。
もはや私の頭は作戦会議どころではなかった。
出来れば頬杖をついて、リヴァイ兵長の顔を眺めていたい。
まあ現実はそんなこと出来るはずもなく、横目でちらりと覗く程度だけれど。
せめて名前だけでも覚えてもらいたいなあ。
だけど、どうすればいいだろう、と一人悶々と悩んでいた。

「…オイ、」
「…」
「オイ、アイル」
「は、はいっ!」

目の前の書類をとんとん、と指で叩く兵長にどきりと肩が上がる。

「もうそのページじゃねぇぞ」
「す、すいません…」

ああ…なんてことだ。
兵長にぼーっとしている姿を見られてしまった。
その上、指摘までされて…最悪だ。
壁外に向けて緊張感がねぇ、こいつも次の壁外でどうせ死ぬんだろうな、と思われたかもしれない。
ああ、もう!馬鹿!
これじゃあ名前を覚えてもらう前からイメージが悪すぎる。
すっかりテンションが下がり、めそめそと書類に視線を落とした。

…あれ?待てよ?
そういえばさっき、私の名前呼んでなかった…?

ついさっきの記憶を辿る。

『オイ、アイル』

う、うわあああ!!!!
呼ばれてた!名前、呼ばれてたよ!!!!!!
兵長、私の名前知ってたんだ!
やばいどうしよう嬉しすぎるようわあああ!!!!!

「オイ、」
「…」
「オイ、アイル」
「うわ、は、はいっ!」

兵長の指がまたとんとんと書類を叩く。

「もう次のページだ」
「あっ!はい、」
「テメェ、さっきからぼーっとし過ぎだぞ」
「すいません…」

集中しろ、と舌打ちをされ、睨まれた。
本当ならば血の気が引いているところだが、また名前を呼ばれたことに顔が緩んでしまって仕方がない。
そんな顔を兵長に見られてしまってはいけないので、読む振りをしながら書類でそっと顔を隠した。



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