「リヴァイ、もう行くね」

静かな声に、瞼をゆっくりと開ければ、枕元にアイルが立っていた。
頭がぼんやりとする中、アイルの瞳を見つめる。

「…そうか」

そう呟けば、アイルが不機嫌そうな表情を浮かべ、俺を見下ろした。

「普通は、行くなって言うんじゃないの?」
「…言った所で、どうにもなんねぇだろ」
「…まあね」

そう。どうにもならいのだ。
アイルは死んだ。
俺の目の前で巨人に噛み砕かれ、死んだ。
アイルや他の戦死した仲間達の葬儀を終えた今日、どうやらアイルは別れの挨拶に来たらしい。

「…最後まで、泣かないんだね」
「泣かねぇよ」
「リヴァイの泣き顔、見たかったんだけどな」

そう言ってへらへらと笑うアイルがまるで生きているようにリアルに見え、手を伸ばしてみた。
勿論、触れられる筈もなく掌が空を切る。
そんな俺を見て、アイルの瞳が揺れた。

「…リヴァ…ごめ、」
「…」
「リヴァ、イを…残して、死ん、じゃって…ごめ、ん」

アイルのことだ。
きっと、最後は笑って別れようと心に決めていたのだろう。
だが、一度零れてしまった涙は、次々と溢れるようにアイルの頬を伝っていく。
そんなアイルの涙を拭ってやろうともう一度、手を伸ばしてみた。
が、やっぱり拭ってやることは出来なかった。
無駄だとは思いながらも、何度も手を伸ばす俺は、どうやらアイルの死を受け止められていなかったらしい。
こうなって初めて、アイルがもうこの世には存在しないのだと、痛感させられた。

「アイル、泣くな」
「ぅ、だって、」
「そっちには、たくさん仲間がいるだろうが」
「でも、リヴァ、イが」
「俺もいずれはそっちに行く。それまでは、ペトラ達と楽しくやってろ」

いいな?とアイルに問い掛ければ、小さくコクンと頷いた。
何が、いいな?だ。
よく言えたもんだと、震える手をぎゅっと握り締めた。

「…もう、行かなきゃ」

涙を拭きながら呟くアイルにごくりと唾を飲み込む。
もう、これで最後なのか。
アイルの姿を見ることも、これで、


…冗談だろ?


段々と透けていくアイルの姿に、体から血の気が引いていく。
…駄目だ。行くな。
まだ、行くな…!


「アイル!」
「リヴァイ、ばいばい」


ニコッと笑顔を浮かべ、アイルは一瞬にして、消えた。
アイルへと伸びた手が力無く、落ちる。
確かにここに居た筈なのに、俺の瞳に映るのは暗い天井だけだった。

ずっと共に戦ってきた。
そして、これからもずっと、俺の隣に居てくれると、

「…勝手に死んで、勝手に消えやがって」

ハッ、と小さく笑った喉がひくついた。
行き場の無い悲しみと怒りが一気に押し寄せてくる。
だが、最後に見たアイルが巨人に噛み砕かれた姿ではなく、笑顔のアイルになっただけでも、俺は救われたのかもしれない。

「…オイ、アイル。良かったな、俺の泣き顔を拝められて」

天井に向かい、ぼそりと呟く俺の頬には涙が流れていた。
きっとアイルはこんな俺を見て、あっちでニヤけているに違いない。



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