「…リヴァイ、一つ聞いてもいいかな?」

エレンを借りようとリヴァイの元にやって来たのはいいが、ソファーで踞りながら、しくしくと泣いているアイルの姿が目に入り、気になって仕方がなかった。

「あれ、アイルだよね?」
「…ああ。気にするな」
「いや、気にするよ」

両手首が、リヴァイのと思われるスカーフで縛られている。
よほどきつく締め付けられているのか、手が青白くなっていた。
うん、あれ絶対、血通ってないよ。
相変わらずのサディストぶりだなぁ、と口元がひきつりつつも、ふと、リヴァイの左頬が赤く腫れ上がっていることに気付いた。
まじまじと見ると、うっすら手形が浮き上がっているようにも見える。

「なにその顔?」
「…アイルにぶたれた」
「…マジ?」

調査兵団とは思えないほど温厚な性格のアイルが、手をあげるなんて、考えられない。
ましてや自分の直属の上司に。
でもリヴァイの頬を見る限り、嘘でもなさそうだし…。
なんでまた?と口に出した瞬間、アイルがガバッと顔を上げた。

「ハンジ分隊長…!違うんです…!リヴァイ兵長のほっぺに止まった蚊を、ぺちんとしただけなんです…!」
「何がぺちん、だ。椅子から転げ落ちるくらい、ぶっ叩きやがって」
「なっ…!でも、蚊から身を守ってあげたじゃないですか…!」
「テメェに触れられるくらいなら、蚊に血を吸われた方が100倍マシだ」
「…う、うわああん!!!酷いよおおおぉ」

兵長のばかぁ!!とガバッと踞り、またもやしくしくと泣き始めた。
手首が痛いよお、と泣きながら呟くアイルを見て、はあ、と溜め息を吐く。

「リヴァイ、いくらなんでもやりすぎだよ」
「うるせぇな。躾だ」
「躾って…。アイルは、蚊を潰そうとしただけでしょ?」

呆れた顔を浮かべながら、冷たくなったアイルの手を取った。

「今、ほどいてあげるからね」
「うぅ、ハンジ分隊長…ありがとうございます…」

瞳を潤ませながら上目遣いで見つめてくるアイルに胸がキュンと疼く。

(やべえ、くそ可愛い)

まったくリヴァイの奴はよくもこんな可愛い子に酷いことが出来るよ。
スカーフをしゅるりとほどき、冷たくなった手を握り締める。

「ハンジ分隊長が来なかったら私の手、死んでました…」
「死にはしねぇだろ」
「リヴァイ、ちょっと黙りなさい!」
「…大体な、テメェはいつも甘すぎるんだよ」

チッと舌打ちが聞こえたが、はいはい、と軽く受け流す。
少し力の加減を間違っただけなのに、こんなことされて。
ああ、もう。細い手首にくっきりと痕が残っちゃってるじゃん。
リヴァイの気が知れないよ、ほんと。



ぷ〜ん、ぴとっ。



「…あ!蚊!でやぁ!!!!!」

ばっちーん!という音が鼓膜に響き、頭がぐわんぐわんと揺れる。
え?なに?何が起こった?

「…やっちゃった」

青ざめるアイルの顔と、「ざまあねぇな」と必死に笑いを堪えるリヴァイの顔が視界に入る。
私はじわじわとやってくる頬の痛みと共に、そのまま崩れ落ちた。



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