リヴァイに誘われ、行き付けの酒場で飲んでいた。かれこれ2時間くらい飲んでいるだろうか。いい感じで酔いも回り、他愛もない話でケラケラと笑っていた。しかし、何か物足りない。そうだ。ハンジがいないんだ。いつもは必ず3人で飲んでいるのに、ハンジがまだ来ていない。「ハンジ、実験でも立て込んでるのかな?」とリヴァイに聞いてみると、何故か言葉を濁したまま、酒を飲み進めている。…まあいいや。とりあえず飲もう。空になったジョッキをかかげ、店員に追加のビールを頼もうとした瞬間、リヴァイに腕を掴まれた。

「なに!?」
「…場所変えるぞ」

リヴァイがぼそりと呟き、代金をテーブルに置いた。いつもはハンジと2次会に誘っても帰るくせに、今日は随分と調子が良いらしい。ああ、ハンジの奴!なんで今日に限って来ないんだよ…!そんなことを思いながら、ジャケットを羽織り、足早に外に出て行くリヴァイの後ろを追い掛けた。


***


辿り着いた先はなかなかお洒落な店だった。大衆酒場にしか行ったことがない私は、ドキドキしながらリヴァイの後ろをついて行く。店内は薄暗く、落ち着いたBGMが流れていた。なんだかカップルで飲みに来るような雰囲気の店内に、ごくりと唾を飲み込む。キョロキョロと辺りを見回して見れば、やっぱりカップルだらけだった。

(…ちょっと私達、場違いじゃない!?)

一人、はらはらしていると店員にこちらへどうぞ、と案内された。レースカーテンで仕切られた個室だ。カーテンを開ける前から、嫌な予感がして仕方がない。店員がスッとカーテンを開ける。

(カップル席…!!!)

予感は的中した。ソファーが一つしかない。なんでカップルでもないのに、こんな席に通されなきゃいけないのか。呆然と立ち尽くす私をよそに、リヴァイは平然と腰を降ろし、早速、ウイスキーを注文している。

「オイ、アイル。突っ立ってないでさっさと座れ」
「あ、うん!」

鋭く睨み付けられ、反射的に腰を降ろした。座ってみれば、想像以上にリヴァイとの距離が近い。出来るだけ距離を取ろうともぞもぞと腰を動かした。ごゆっくりどうぞ、とカーテンを閉め、店員が立ち去っていく。薄暗い空間で2人きりになってしまった。さっきまでは楽しく飲んでいた筈なのに…どうしてこうなった!?膝の上で握り締めた拳がじわりと汗ばむ。リヴァイは、おつまみのナッツをぽりぽり食べているだけで、何も喋らないし。…気まずい。気まず過ぎる。

「ね、ねえ、リヴァイ…」
「なんだ?」
「…もう遅いし、帰らない?」
「…何が遅いだ。てめぇいつもは朝まで飲んでるだろうが」

ナッツを口に運びながら、低く呟くリヴァイに押し黙る。全くもってその通りだ。ハンジとはいつも朝までコースだった。でもそれは相手がハンジであってリヴァイじゃないし、ましてや2人きりだし…。ああ、もう。さっきから心臓がうるさい。リヴァイにドキドキしてるのだろうか?いや、違う。これは酒のせい。そしてこの雰囲気のせい。うん、きっとそうだ。そうに決まってる。

「…なあ、アイル」

ドキッと心臓が跳ねた。ただ名前を呼ばれただけなのに、どうした、私。リヴァイの顔が、うまく見れない。

「…さっき、ハンジがどうのこうの言っていたが、」
「う、うん」

今日は誘ってねぇ、とリヴァイが伏し目がちにぼそりと呟いた。身体中が一気に熱くなる。何で今更そんなことを言うのか。リヴァイの視線が、ゆっくりと私へ移る。いつもの睨み付けるような鋭い目付きではなく、もの凄く色っぽく見えた。目が、逸らせない。リヴァイの瞳に映る自分が、見たこともないくらい女の表情になっていた。なんて顔してるんだ、私。カーッと顔に熱が集中するのが分かり、顔を逸らした。が、リヴァイはそれを許さない。腰に手を回され、グッと引き寄せられた。目を丸くしてリヴァイを見れば、リヴァイの口角がわずかに上がっている。

「…今夜は、帰さねぇぞ」

そう低く呟きながら、リヴァイの顔が段々と近付いてくる。ああ、もう。酒のせいでも雰囲気のせいでもない。全部、リヴァイのせいだ。もう分かった。十分に分かったから。
―お願い。心臓、止まれ。



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