…巨人化できない。
さっきから何度もやってるのに…!
なんでだ、ちくしょう!!!

兵長には「なんとかしろ」と冷たい視線を向けられた。なんとかしろって言われたって、自分でもどうしたらいいか分からないのに。何度繰り返しても、傷が増えていくだけで気持ちばかりが焦っていく。

―ちくしょう。いてぇ。






「エレン」


コンコン、と軽いノック音と俺を呼ぶ声がした。
アイルさんだ。


「入ってもいい?」
「…どうぞ」


カチャリ、と扉が開く。カツカツと静かにブーツを鳴らし、アイルさんが近付いてきた。きっと、兵長に様子を見てこいとでも言われたのだろう。ふと、アイルさんの視線が俺の手に向けられていることに気付いた。咄嗟に手を隠し、俯く。アイルさんも巨人化出来ない俺に失望しているに違いない。…畜生、なんでだ。なんで出来ないんだ。巨人化出来なかったらウォール・マリアを奪還するもクソもないのに―
自分への苛立ちに唇をギリッと噛み締めた。瞬間、頭に優しい重み。驚いて顔を上げると、アイルさんが少し悲しげに笑みを浮かべながら、俺の頭を撫でていた。


「…アイルさん?」
「…誰だって、調子が悪い日はあるよ」


私も今日はお腹が痛くて、上手く馬に乗れなかったし、とアイルさんが笑いながら呟いた。俺が巨人化出来ないのは調子が悪いとかそんな簡単な問題じゃないことをアイルさんだって本当は分かっている筈なのに。


「…お気遣い、有難うございます」
「なんのこと?さ、早く手出して」


とぼけながら、傷付いた手を取るアイルさんの手が温かい。丁寧に消毒してくれるアイルさんの指先を見て、少しだけ泣きそうになった。



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