アイルと2人、明日の会議で使う書類を作成していた。やっとで終えたと思えば、既に深夜。向かい側に座るアイルがあくびをしながら、立ち上がった。



「…ふわぁー。あー、疲れた。今日泊まってくねー」


…こいつは今、何て言った?
シャワー貸りるね、と浴室に向かうアイルの腕をがっしり掴む。


「おい、待て。冗談言うな」
「だって、もう0時過ぎてるし帰るの面倒くさいんだもん」


俺の手を振りほどき、アイルが浴室に消えていった。
確かに、アイルの寮までここから30分以上はかかる。
だが、そうは言っても俺は男。アイルは女。
男からしてみれば、『泊まる=体を許してる』と捉えるのが普通だ。


(…アイルの奴、俺に抱かれてもいいってのか?)


眉をひそめながら浴室に目を向けたが、アイルの頭にそんな考えは微塵もないことは分かっていた。
あいつの頭の中は「疲れた」「帰るのめんどい」「今すぐ寝たい」恐らく、この3つだ。
…いくらなんでも、そんなアイルに手を出せるはずがない。








「あー、さっぱりした!リヴァイも浴びてきなよ!」

ここはてめぇの部屋じゃねぇと突っ込もうと思ったが、風呂上がりのアイルの姿が想像以上に色っぽく、言葉が出なかった。
いつもは一つに結んでいる髪がおろされ、サイズが合わない俺の部屋着を身に纏う姿が、なんともいえない。


(ちっ。俺の気も知らないで)


呑気に頭をガシガシとタオルで拭くアイルの横を通り過ぎ、浴室へと向かった。










…ナメてやがる。
風呂から上がってみれば、アイルがベッドの真ん中に堂々と寝ているのだ。
どこに寝ればいい?と聞く訳でもなく、片方に寄って寝ている訳でもなく、ど真ん中に陣取ってやがる。
…ありえねぇ。


「おい、こら。起きろ」
「…なに?眠いんだけど」
「てめぇは、床で寝ろ」
「は?なんで?リヴァイが床でしょ、普通」
「俺のベッドだ」
「今日は私のベッドだもーん」
「…ちっ、少しずれろ」
「ぎゃあ!」


アイルを蹴飛ばし、開いたスペースに寝転がる。


「一緒のベッドに寝るの!?狭いよ!床で寝てよ!!!」
「黙れ。さっさと寝ろ」


苛つきながら電気を消そうとすると、アイルに腕を掴まれた。
突然のことに、柄にもなく心臓が跳ね上がる。


「…なんだ?」
「電気消さないで!私、真っ暗だと眠れないの!」
「(…そんなことか)てめぇはガキか」


ベッド脇のランプに明かりを灯し、部屋の照明を消した。


「よし、これで寝れるー」


おやすみ、とアイルが目を閉じた。

その顔を、じっと見つめてみる。
アイルの寝顔をこんなに間近で見るのは初めてだった。
長い睫毛、薄い唇、柔らかそうな頬。


(…触りてぇ)


気が付くと、アイルに手が伸びていた。


「…ねえ、リヴァイ」


突然アイルがぱちっと目を開けた。
やべぇ、と心臓が鳴る。
誤魔化すように前髪をかきあげた。


「…あ?」
「そっち向いて寝てよ」


寝顔、見られたくないとアイルが眉間に皺を寄せている。
俺が左側でアイルが右側に位置している。
俺は、右頬を下にし、アイルは左頬を下にして寝ているため、必然的に向かい合わせになっている状態だった。


「お前がそっち向けばいいだろ」
「私、左を下にしないと眠れないの」
「俺は右を下にしないと眠れない」


そう言えば、頬を膨らませるアイル。
いちいち面倒くせぇ、と思いつつアイルの右隣に移動しようと覆い被さった。
瞬間、アイルが体をびくっと強張らせる。
俺はその反応を見逃さなかった。


「なんだ?」


覆い被さったまま、アイルを見下ろす。
間接照明に照らされたアイルの顔は明らかに真っ赤だった。


「な、なんでもないよ!早くそっちに行って!」


アイルがふいっ、と顔を背けた。


…どうやら、俺の思い違いだったらしい。
こいつ、思いっきり意識してやがる。


言われた通りに、右隣に体を移したがもう既に俺の頭はそれどころではなかった。


「お、おやすみ」
「…ああ」


今度は、必然的に背中合わせになる。
どことなく気まずい雰囲気が流れる中、時計の針の音だけがカチカチと響き渡った。
さっきのアイルの表情が頭から離れない。
手を出そうなんて考えるな、と自分に何度も言い聞かせていたが、アイルの真っ赤に染まった顔とあの予想していなかった反応に―







相当、キた。







「アイル」







アイルの方に体を向き直す。
肩をぐいっと引き、顔を無理矢理こっちに向かせれば、唇をきゅっと結び、瞳を潤ませるアイル。




――もう、限界だ




アイルに覆い被さり、するりとシャツの下に手を滑り込ませる。
今まで聞いたこともないくらい甘い声を上げるアイルの唇に噛み付くように喰らい付いた。



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