あの日の夜はまさかと思ったが、思い返してみれば最近のリヴァイはどこか様子がおかしかったような気がする。特にエレンと一緒にいる時…いや、そんな訳無い。頭を振り払う。じわじわと汗ばむ掌を服で拭い、勢い良くジャケットを羽織った。
「オイ、どこに行く?」
後ろから突如聞こえた不機嫌そうな声に、体がドキッと跳ねた。振り向くと、リヴァイが腕組みをして壁に寄り掛かかっている。
「…エルヴィンのとこ」 「こんな時間にか?」 「時間が空くの21時以降って言われてたから」
何故そんなに不機嫌そうなのか。また、胸がざわめいた。顔を逸らし、足早に扉に向かう。
「アイル、待て」 「なに?」 「送って行く」
リヴァイが椅子に掛けてあったジャケットをバサリと羽織った。
「…なんで?」 「外、暗いだろうが」
ボソッと呟き、リヴァイが私の横を通り過ぎて行く。暗いって…私が襲われるとでも思ってるの?リヴァイと互角の力量を持っている、この私が?
全身に熱が駆け巡った気がした。心臓が激しく鳴り響き、呼吸が上手くできない。明らかに仲間としてじゃない。一人の女に対しての“心配”だ。
ねえ、リヴァイ。 私の事、女として見ているの?
頭の中で問い掛けて、ハッとした。 “リヴァイは私の何を知っている?” スーッと身体中の血の気が引いていく。リヴァイ班に来てから薄れていた現実が胸に突き刺さった。リヴァイは本当の私を知らないというのに、少しでも浮わついた私は馬鹿だ。視界がぐらりと歪む。ふらついた足取りでリヴァイの後ろを追い掛けた。
◆◇◆
「送ってもらったのか?」
エルヴィンが窓から外を覗き、呟いた。うん、と伏し目がちに頷く。
「アイル、」 「リヴァイはただの仲間だよ」
エルヴィンが口に出す前に、さらりと答えた。ベッドに座る私を暗く歪んだ瞳で見下ろされる。エルヴィンの手が、胸元のシャツのボタンへと掛かった。ゆっくりとシャツを脱がされ、露になった躰。左胸に咲く青い薔薇の刺青にエルヴィンの唇が這っていく。その行為を目で追いながらも、私の脳裏にはリヴァイの姿が浮かんだ。
汚い過去からも犯した罪からも逃げようとは思わない。だけど、せめてリヴァイの中でだけは綺麗なままの私でいたい。それくらいの願いなら許されるかな?
スッと閉じた瞼から、一筋の涙が頬を伝った。
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