「アイル、後で俺の部屋に来い」 「…了解」
最近、毎日だ。夕食の後、リヴァイは私を部屋に呼ぶ。壁外調査に向けての書類やエレンの実験結果の報告書が溜まっているのは分かるが、みんなの前で「部屋に来い」と言われるのは、なんとなく気が引けた。ペトラの視線が突き刺さるのを感じたが、気付かない振りをして、席を立った。
◆◇◆
「このくらい、一人でなんとかできるでしょ」
書類に手を伸ばしながら、ぶつくさ言ってみるも、リヴァイは無視をしたままペンを走らせている。
「ねぇ、リヴァイ。明日からペトラにお願いしたら?」
別に私じゃなくても誰にでも手伝える作業だ。だったら、ペトラにやってもらった方が、と思い口に出した。私の言葉に、すらすら動いていた手がピタリと止まる。
「…何故だ?」
ゆっくりと視線を私に向けるリヴァイに、心臓が少しだけ跳ねた。
「いや、こう毎日だとさ、疲れるし」 「俺だって疲れてる」 「それもそうだけど」 「3日もあれば終わる。最後まで付き合え」 「…わかった」
はぁと小さく溜め息を吐く。リヴァイ班に来てから、なるべく2人きりになるのは避けてきた。が、やっぱりリヴァイといると楽だと感じる自分がいる。ここに来てから無理に笑ったり、周りに合わせてばっかりで正直疲れていた。リヴァイはそれを察して私を誘ってくれたのかもしれない。…だけど、やっぱり駄目だ。リヴァイの匂いが漂うこの部屋で、ソファーに並んでの作業。さすがに、この距離感はキツい。
私が頑張ればもっと早く終わるかもしれない、と手元にある書類に目を通しながら、次の書類へと手を伸ばした。
瞬間、リヴァイが同じタイミングで手を伸ばし、手と手が触れ合ってしまった。お互いに、バッと手を引っ込める。
「あ、ごめん」 「ああ」
やばい。今のは極端すぎたかもしれない。平然を装いながら、謝罪をするも、心臓は飛び出しそうなくらいバクバクしたままだ。指先が触れただけで、これだ。込み上げてくる感情をグッと堪える。
(…あれ?)
ふと、胸に違和感を感じた。極端に手を引っ込めたのは、私だけじゃない。リヴァイもだ。でも、何故?
(…まさか、ね)
横目でリヴァイの様子を伺ってみるが、至って普通にペンを走らせている。考えすぎだ、と自分に言い聞かせるも、一瞬頭を過った想像に胸がざわめいて仕方がなかった。
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