エルヴィンは、真っ暗な闇の中で生きていた私に、手を差し伸べてくれた。今の生活があるのも、全てエルヴィンのお陰であって、その恩を一生忘れることは許されないし、返さなくてはいけないと思っている。だから、エルヴィンを拒むことは絶対に許されない。例え、エルヴィンの歪んだ愛が私を蝕み続けても。昔の生活から比べたらたいしたことなんてない。そう、たいしたことがないのだ。
「アイルさん!?」
エレンの声に、ハッと我に返った時には遅かった。ふわりと体が宙に舞い、背中から勢いよく地面に叩き付けられた。エレンと格闘術の訓練中にも関わらず、ぼーっとしていた結果がこれだ。
「だ、だいじょうぶですか!?」
「大丈夫」と頭では言ったつもりが、声にならない。強く背中を打ち付けたせいか、呼吸がうまく出来なかった。エルド達が、駆け寄ってくる。そんなに慌てなくても平気なのに。
「エレン、とりあえず救護室に行くぞ!」 「は、はい!」
エルドとエレンが、私を抱えようとした瞬間、「どけ」と低い声が聞こえた。エルド達の手が止まる。
「俺が連れていく」
リヴァイだ。心臓が、ドクンと大きく鳴った。スッとエルド達を退け、私を軽々しく抱き上げる。ふわり、とリヴァイの匂いが鼻をかすめた。「お前たちは訓練を続けてろ」と指示を残し、救護室に向かう。後ろから、よろしくお願いします、とエレンの心配そうな声が聞こえた。
「大丈夫か?」
目頭がじわりと熱くなった。リヴァイはいつだって優しい。普段は仏頂面で冷たい雰囲気を漂わせているが、違う。リヴァイは誰よりも優しい。リヴァイの優しさはいつだって無償だった。見返りなんて求めない。私が知る男という生き物は汚い奴らばかりだった。リヴァイと出会って私の真っ暗だった世界に少しだけ色がついた。こんな男の人も、いるのかと。初めて優しくされて守られて、嬉しかった。
もう、駄目だ。どんなに誤魔化そうとしても、リヴァイと一緒にいると胸の奥に閉じ込めていた感情が、じわじわと滲んでくる。胸が、苦しい。お願いだから、もうこれ以上私に構わないで。優しくしないで。
これ以上リヴァイと一緒に居れない。
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