「明日、街を出る」

台所に立つ、私の背後から聞こえた、聞きたくない一言。
リヴァイと付き合ってもう長いが、この一言だけは、どうしても慣れない。

ただの市民の私にとって、壁外は未知の世界だ。
私は巨人さえ直接見たことがない。
だから、リヴァイが兵長として、活躍してると耳にしても、巨人と戦うリヴァイの姿をまったく想像できなかった。
いつも思うことは、
“死なないで”
ただ、それだけ。

「そっか。早いの?」
「ああ」
「泊まってく?帰る?」

私の問いに、リヴァイは答えない。
その代わりに、後ろから抱き締められた。

シュンシュンとお湯が沸く音だけが、部屋に響き渡る。
背中に感じるリヴァイの温もりに、私は目頭が熱くなった。

“行かないで”

命を懸けて、巨人を絶滅させようとしているリヴァイに、そんなこと言えるはずがなかった。

「いつも、1人にさせて悪いな」
「平気だよ」
「…嘘つけ」

ぐいっと、体を後ろに向けられた。

「泣いてんじゃねぇか」

ああ、見られてしまった。
いつもはリヴァイの見えない所で泣いていたのに。
体に伝わるリヴァイの温もりに、涙が堪えきれなかった。

「寂しいわけじゃない。ただ……」

“あなたを失いたくないの”

口にしようとした瞬間、リヴァイの唇が私の唇に触れた。

「俺は死なない」

そっと唇を離し、私の目を強い眼差しで見つめる。

「…そんなの分からない」
「死なない。絶対に、だ」

ただの口約束じゃない。
リヴァイは本気で言っている。
私の心の中の不安が、すうっと、消えていくのを感じた。

「待つのは辛いか?」

リヴァイが、私の頬にそっと手を添える。
首を横に振り、私はリヴァイの手に自分の手を重ねた。

「いってらっしゃい」

初めて心の底から、そう言えたような気がした。

私はリヴァイの帰る場所であり続けよう。
命を懸けて戦い続けるリヴァイにしてやれることは、ただ、それだけしかない。



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