何年も会わないようにしてきた。会わなければなまえを忘れられると、そう思っていたからだ。
「あら、リヴァイ?」
かちゃりと開かれたドアから、なまえが顔を出した。久しぶりね、と優しく笑うなまえは、何年経とうが変わらない。美しく、可憐な姿のままだった。
「何年振りかしら?元気にしてた?」
「・・・まあな」
なまえは、元同期だった。周りから認められる程の実力の持ち主で、よく2人で組んでは巨人を仕留めてきた。いちいち口に出さなくても、俺が思った通りに動いてくれる。唯一、安心して背中を預けられる相手。それがなまえだった。
「エルヴィンから、リヴァイのことは聞いていたけど兵士長になったんでしょう?」
「ああ」
「おめでとう。月日が経つのは早いわね」
そんななまえが引退し、家に入ったのは何年前だっただろうか。壁に掛けてある幸せそうな写真。なまえの肩を抱く、エルヴィンの姿。
「エルヴィンとは上手くやってる?」
「...ああ」
「ならよかったわ。これからも、支えてあげて頂戴ね」
ニコニコと笑うなまえに自然と眉に皺が寄る。2人が恋仲だと、あの時何故気付かなかったのか。もし、気付いていれば、相手がエルヴィンだろうが何だろうが、どんなことをしてでも奪った。が、2人の仲を知った時には「結婚する」だ。馬鹿げてやがる。
「今、お茶淹れるわね」
どんなに欲しくても、もう手に入らない。エルヴィンの「妻」を奪うことは出来ない。キッチンに立つ、なまえの後ろ姿を見つめながら、唇を噛み締めた。自分なりに、努力はしてきたつもりだ。なまえと距離を置いたり、好きでもない女と付き合ってみたり。でも、どうしても忘れることは出来なかった。努力すればするほど、なまえが頭から離れない。なまえが欲しい。他には何もいらない。欲は強まっていくばかりで、気付けば今日、俺はここに足を運んでいた。
「リ、リヴァイ!?」
後ろからなまえをきつく抱き締める。びくりと体を強張らせるなまえに腕の力を強めた。
「ど、どうしたの?」
「...」
「ふざけるのはやめ...っ、」
ふざけてねぇよ、と低く呟き、首筋に顔を埋めれば、なまえの体が跳ねた。何故俺じゃなく、エルヴィンなのか。エルヴィンの何処に惹かれた?エルヴィンにあって、俺に無いものはなんだ?なあ、なまえ。教えてくれよ。
「...リヴァイ、お願い。離し、て?」
そんな怯えた声を出すな。震えてんじゃねぇよ。俺はただ、お前を、愛しているだけなのに。
「なまえ、悪い」
「...な、に、きゃあっ!」
なまえを抱き上げ、ソファーへと向かう。強張った表情が目に入り、少しだけ胸が傷んだが、見ない振りをした。こんなことをしても、気持ちが消えることはない。分かってる。でも、もうこうするしかなかった。
「...リヴァ、イ。...どうし、て?」
ソファーに投げ出し、ぎしりと覆い被さる。動けないように腕を押さえ、見下ろせば、なまえの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。きっと、今、なまえの脳裏にはエルヴィンが浮かんでいるのだろう。助けて、と心の中で何度も叫んでいるに違いない。俺は、今日からなまえの中で最低な男に変わる。嫌われて、憎まれて。でも、もうそれでいい。それでいいんだ。
「愛してる」
「...え?」
もう何年も、ずっと。お前だけを、愛し続けてきた。報われないのならせめて、俺を嫌って、憎んでくれ。
「俺は、お前を、愛してる」
目を見開くなまえの頬に雫が落ちる。胸が引き裂かれそうなくらい、苦しい。お前に出会わなければ、こんな感情を知らずに済んだのに。また一つ、なまえの頬に雫が落ちる。涙でぼやけた視界の先には、ポロポロと涙を零すなまえがいた。
「...なんで、お前が泣く」
「...っ、だって、私...リヴァイの涙、初めて、見た、」
それくらい苦しいんでしょ?悲しいんでしょ?リヴァイの気持ちに気付いてあげられなくて、知らない間に傷付けて、ごめん。そう言って、そっと抱き寄せてくるなまえに息が止まりそうになった。どうして、突き飛ばして、逃げ出さない?どうして、お前は、...そんなにも、優しいんだ。
「...私を抱けば、忘れ、られる?」
「...分からねぇ」
...ああ、そうか。俺はそんな優しくて、温かいなまえに惹かれたんだ。俺を突き放すどころか、受け入れようとしてくれている#mame#に、もう馬鹿な真似をする気は起きなくなっていた。なまえの優しさが体中に染み渡り、黒く淀んだ感情が浄化していく。
「...怖がらせて、悪かった」
「...いいの」
これから先、なまえを忘れられるかは分からない。だが、もうなまえのことも、エルヴィンのことも、憎しみの目で見ることはきっとない。
「...もう少しだけ、このままでいさせてくれ」
背中に回されたなまえの腕。首筋に掛かるなまえの息。この瞬間だけは、俺だけのものだ。この先もずっと、その事実は変わらない。それだけで、もう、充分だ。
お返事(^ω^)