感情の起伏もなく、巨人を殺しまくる私は、いつしか周りから“兵器”だの“殺戮マシーン”だのと呼ばれ、近付く人はいなくなった。

兵長は人類最強の兵士とみんなから言われているが、私も負けないくらい強い腕を持っている。
ただ、なんで兵長は“兵士”で、私は“兵器”なのか。
答えは簡単だった。
彼は私とは違い、周りから信頼されている英雄。
私は彼とは違い、気味悪がられている殺戮マシーン。
もはや誰からも人間として見られていなかった。


いつものように壁外調査で、私は前方の巨人2体を仕留めにかかった。
ズドォンと大きい音を立て、巨人が崩れ落ちる。
が、その音で後方から凄い速さで近づいてくる奇行種に気が付けなかった。
ハッと気配に気付いて振り向いた瞬間には、私の肩は巨人に噛み付かれていた。

「あああぁぁぁ!!!」

噛み付かれた肩が燃えるように熱い。
ミシミシと骨が軋む音が聞こえた。
噛み砕かれる、と思った瞬間、巨人が奇声を上げて、崩れ落ちた。
その拍子に、私も地面へと崩れ落ちる。
初めて味わう激しい痛みで体か思うように動かなかった。
やっとの思いで、ゆっくりと顔を上げてみると、そこにいたのは兵長だった。
巨人の血で汚れた手をハンカチで拭いている。

「…生きてるか?」

“生きてるか?”私にとって、その言葉は“大丈夫か?”と言われるより、とても新鮮なものだった。
兵士になってから、人間扱いされたことがなかったから。

「…兵器は不死身ですよ」

皮肉混じりに言うと、兵長はバカか?と言いながら、肩の止血を始めた。
傷口を圧迫され、激しい痛みが私を襲う。
唇を噛み締めて、声が出ないように頑張ったが、痛さのあまり表情が歪んだ。

「…おい、アイル。お前は兵器でもなければ、不死身でもなんでもない、ただの人間だ」

兵長の言葉に、胸が苦しくなった。息がうまく吸えないほどに。
気付くと涙がすうっと零れ落ちていた。

「へ、いちょ、」
「うるせぇ、喋るな。」

兵長は私のことを軽々と抱き上げると、少しだけ我慢しろ、と救護班の元へと駆け出した。

まわりからは、これからも“兵器”とか“殺戮マシーン”と呼ばれるだろう。
だけど、兵長は本当の私を見てくれている、それだけで十分だと思った。



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