ノックする音が聞こえ、ドアを開けるとジャンが立っていた。

「畜生!最悪だ!」
「どうしたの?」

エレンとミカサがキスをしていた!とジャンが声を荒げて言った。

「そんな…本当に?」
「俺が、見間違えると思うか?……あいつはなぁ!」
「いたっ!」

肩をドン、と押され壁に追いやられる。
ジャンの目を見ると、完全に瞳孔が開ききっていた。
私の頬にジャンの手が触れ、親指で唇をつうっ、となぞられた。
突然のことに、ビクッと体が反応してしまう。

「……あいつ、ミカサの唇に、」
「ジャ、ジャン?」
「…何度も、何度も角度を変えて、」

ジャンの顔が私の顔に、段々と近付いてくる。

「ジャン、落ち着…んっ!」
私の言葉は、彼の唇によって遮られた。
角度を何度も変える、激しいキス。
きっと、ジャンの脳内で私はミカサになっているんだろう。
うっすらと目を開けて確認すると、目を瞑り、酔いしれているジャン。

「っ!」

にゅるり、と彼の舌が私の口内に侵入してきた。
私の舌を、器用に絡めてくる、ジャンの舌使いに、腰が砕けそうになった。

ミカサの代わりだっていい!だから、もっと!と、感じる私は、おかしいのだろうか。

「…っ、はぁ、」

唇と唇が離れ、まだぼーっとしながらも、ジャンを見つめる。
ジャンの瞑られた目が、ゆっくりと開かれ、私の瞳を捉えた。
その瞬間、ジャンは我に返ったのか、私からバッと後ろに離れた。

「わ、悪かった」

ジャンは、手の甲でぐいりと唇を拭い、逃げるように部屋を出ていった。

ジャンにとって、私は良き相談相手。
それ以上でも、それ以下でもないことは分かっていた。
だけど、私はジャンが好きだった。
今までずっとその気持ちが大きくならないようにしてきたのに、あんなことされたら、

「もう、抑えられないよ」

絶対に知ることはないと思っていた、ジャンの唇の感触を知ってしまった私は、行き場のない想いをどこにぶつけたらいいのか分からなくなってしまった。



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