棗×梓 R18



棗はいつも、少しだけ寂しそうな瞳をして笑う。

その寂しそうな笑顔の理由に気付いたのは、もう随分と昔のこと。

時折苦しげな表情で僕を見つめる棗から、僕はずっと逃げ続けてきた。

でも、もう逃げたくないんだ。

棗の気持ちにも、僕の中にある棗への気持ちにも、ちゃんと向き合いたい。

僕は棗の事が好きだから、これからもずっと棗の傍に居るよ。

自分勝手だと呆れるかもしれない。

そう思われても構わないよ。

棗を失う事以外に怖いものなんて、何も無いんだから…――。




深夜0時過ぎ―。

僕はこっそりマンションを抜け出し、街中を歩いていた。

向かっているのは棗のマンション。

棗には連絡していないから、びっくりするかな…?

驚いている棗の姿を思い浮かべると思わず頬が綻ぶのを感じ、僕は慌てて顔を引き締めた。

「着いた…一応棗にメール入れておこうかな…。」

棗の部屋の前に着くと、棗にメールを送ろうと携帯を取り出した。

「うーん…ダメだ、上手く打てない。直接チャイム鳴らしてみようかな。」

手が悴んでいてなかなかメールが打てず、僕は小さく息を吐くと悴む指でチャイムを鳴らした。

「…?返事がないな…寝ているのかな?あれ…でも今、棗の声がしたような…。」

扉の向こうに耳を傾けると、何やら棗の吐息交じりな声が聴こえてくる。

「…嘘…もしかして、棗…今…取り込み中…?でも棗、今はフリーなはず…。」

「んっ…は、ぁ…ッ……梓…っ…。」

「…棗…?……っ…。」

艶めかしい声で僕の名前を呼ぶ棗に、僕は顔中が熱くなるのを感じ固まってしまった。

「…梓か?そこに居るの…ちょっと待ってろ。今開ける。」

棗の足音が近づいてきて、数秒で扉が開き中から棗が顔を出した。

「…ごめんね。急に来たりして。…取り込み中だったかな?」

「…いや、別にいいけど……梓、もしかして今の…聴いてたのか?」

頬を真っ赤にしながら頷くと、棗は何も言わずに僕の腕を掴み部屋の中へと上げてくれた。



「…棗?ねえ、何で黙っているの…?僕と話すの、嫌?」

部屋に上がって数分経っているのに、黙ったまま僕を見つめている棗に僕の胸は不安でいっぱいになっていく。

「…梓。俺の事、怒らないのか?俺は勝手におまえをおかずに抜いてたんだぞ…?」

不安と色欲に満ちた瞳で問い掛けてくる棗が愛おしくてたまらない。

僕は答えの代わりに棗の唇に啄むような口付けを落とすと、濡れた瞳で棗を見つめた。

棗は少しだけためらった後、僕を床に押し倒し深く唇を重ねてきた。

息が苦しくなり酸素を求めて唇を薄く開くと、棗の熱い舌が僕の咥内に滑り込んでくる。

互いの舌を舐め合うような激しいキスに身体の熱が一気に下半身に集まっていくのを感じ、僕は小さく身を捩らせ濡れた瞳で棗を見上げた。

「ねえ、棗…僕の事を考えて一人でしてたの?棗は僕にどんな風に触れるの…?どんな表情で僕を抱くの…教えて?」

熱を帯びた視線を棗に向けながら問い掛けると、棗は余裕の無い表情で僕を見つめ返した。

僕の衣服を一枚ずつ剥いでいく棗の仕種が色っぽくて、僕は思わず頬を赤らめて棗の指を見つめた。

この指がこれから僕にどんないやらしい事をするんだろう…――?

そう考えると堪らなく興奮してしまい、僕は思わず身体をビクンと揺らし甘い吐息を漏らした。

首筋に強く吸い付かれると甘い声が漏れそうになり、僕は思わず唇を噛み締めた。

「…梓。声、我慢すんなよ。俺だけに聴かせてくれよ…梓のいやらしい声。」

固く尖り始めている乳首を舌先で転がすように舐めてくる棗に、僕の身体からは完全に力が抜けてしまった。

「んぁ、ぁっ…!ひ、ぁっ…なつ、め…ッ…も、胸だけじゃなくて…下も弄って…?」

「…下?下ってどこだよ。もっと詳しく教えてくれないと解らないだろ?」

耳元で意地悪く問い掛けてくる棗を涙目で見上げると、僕は自らの欲の塊に指を這わせ小さな声でねだった。

「……僕、の…固くて熱くなってるここ…触って、舐めて…気持ち良くして…?」

「…梓のおねだり、たまんねえな……すげえ、興奮するよ…。」

棗の細くて綺麗な指が僕の興奮している欲の塊に這わされると、僕はうっとりとした表情で棗を見つめた。

そのまま形を確かめるように握り込んでくる棗に、僕の唇からは思わず艶めかしい声が溢れ出していく。

「ふぁ、あっ…ん、ぁっ…!棗…っ…ゃ、ん…っ…あ、ひぁっ…んっ…ぁ……ッ…!」

「梓のエッチなミルクで俺の手がべとべとになっちまったな…梓、これ綺麗にしてくれよ。」

棗は僕の先走りを指で絡め取ると、その指を僕の目の前にそっと差し出した。

僕はねだられるままに棗の指を口に咥え、ちゅぱちゅぱと音を立てながら舐め廻していく。

「…ん、ん…ふ、ぅ……ん…綺麗になったよ…?」

「じゃあ…今度は梓の舐めてあげなきゃな。どうせだから俺のも舐めてもらおうかな。」

棗は楽しそうに笑うと身体を180度回転させ、僕の顔に熱く昂ぶった欲の塊を擦り付けてきた。

「…シックスナインなんて、した事ないから…何だか興奮しちゃう…。」

僕は頬を赤らめながら呟くと、そっと棗自身を両手で包み込み根本から擦り上げながら先端を口に咥え舐め廻していく。

棗の舌が僕自身を這い廻る感覚がたまらなく気持ち良くて、僕は思わず棗自身を舐める舌の動きを止めて濡れた瞳で棗自身を見つめた。

「…梓?どうした、舌止まってるけど?」

「…棗…僕…もう、我慢できないよ…ッ…お願い…挿れて?棗が欲しいんだ…。」

僕の言葉を聴いた棗は、そっと身体を起こし僕の上に跨ると僕の頬に愛しげに触れた。

「…梓…本当に、いいのか?俺は梓が好きだよ。けど…おまえは…俺からずっと逃げてただろ?どうして急に…受け入れる気になったんだ?」

棗の声が少しだけ震えているのが解り、僕の胸は張り裂けるように痛んだ。

「今まで逃げててごめんね…でも、やっと気付いたんだ。僕には…棗が必要なんだって…僕は棗の事が…好きなんだって…。」

涙目で棗を見つめると、棗は震える腕で僕を抱き締めてくれた。

僕を抱き締める棗の腕の温もりが優しくて、僕の瞳からは大粒の涙が溢れ落ちていく。

「ったく…気付くの遅えよ。…10年以上も待ったんだから、今夜は寝かせないからな?」

両脚を限界まで開かされると、先走りや体液で濡れて鈍く光っている僕の秘部に棗の指がぬるりと滑り込んでくる。

自身の裏側ばかりを執拗に刺激してくる棗に、僕の唇からは艶めかしい嬌声が溢れて止まらなくなっていく。

「んぁっ…ひ、ぁっ…あぁっ!ん、ぁっ…あ、ぁっ…は、ぁッ…ん、ぁ、ひぁっ…なつ、め…も、指はいいから…僕の中に…棗のコレ…挿れて…?」

棗の固く膨張しきった欲の塊にそっと指先で触れると、棗は色欲に染まった表情をしながら僕の腰を掴んだ。

そして、ヒクヒクと淫らに収縮している僕の秘部から指を引き抜くと、棗はゆっくりと僕の中に欲の塊を埋め込んでいった。

「梓…あず、さっ…!好きだ…ずっと、梓の事だけ見てたよ…。」

腰を激しく打ち付けられる度に僕の中で更に質量を増していく棗の欲の塊に、僕の胸は幸せで溢れ返っていく。

「あっひぁ…!んぁっ!ぃ、あっ!あ、んぁっ…!ふぁっ…!棗…僕も…ッ…僕も棗が好き…一番好き…!」

棗の背中に両腕を廻しながら掠れた声で呟いた刹那、最奥を抉るように強く突いてくる棗に僕の背中は大きくしなる。

「梓…あずさ…ッ…梓のここ…俺のを美味しそうに咥えて、ヒクヒク震えてる…すげえいやらしくて、そそられるよ…ッ…。」

耳元で恥ずかしい言葉を囁かれ興奮した僕は、身体をビクビクと跳ねさせ自身から熱い欲を迸らせると棗の胸に飛び込むように抱き付いた。

数秒後、棗も僕の中に欲望の証を注ぎ込むと、僕の身体を苦しいくらいに強く抱き締めてくれた。

僕を抱き締めるこの腕の強さが、棗の寂しかった心がまだ埋まりきっていない事を物語っているようで、僕の心は小さく軋んだ。




「ねえ、棗……僕に、棗の寂しさを分けてくれないかな。僕も一緒に抱えたいんだ。棗だけが辛いなんて、僕は嫌だよ…。」

行為の後、僕の髪を優しく撫でながら黙り込んでいる棗に僕は優しい口調で語り掛けた。

棗は困ったような照れたような視線を僕に向けると、静かに口を開いた。

「…梓は俺と向き合ってくれた。それだけでもう充分だよ。」

「それじゃ僕の気が済まないの。もっと我儘言ってくれたっていいのに…。」

「そうだな…ずっと俺の隣で笑っていてくれよ。それで、俺を求めていやらしく乱れてくれたら最高だな。」

「!も、もうっ…!僕は真面目に訊いてるのに……ん、…っ…ん、ん…ッ…。」

卑猥な話に持っていこうとする棗に頬を真っ赤に染め反論しようとすると、棗に唇を塞がれてしまった。

「…俺だって真剣だぞ。梓が俺を求めてくれなくなったら、俺はまた独りぼっちになる。今日の梓を想い浮かべて、何度も梓の幻想を抱く事になる。そんなの寂しすぎるだろ?」

棗は拗ねたような口ぶりで僕に語り掛けると、僕の手をそっと握り締めた。

「…ふふ。棗も素直じゃないね?一人にしないでって素直に言えばいいのに…。そんなところも好きだけどね。」

棗の手を優しく握り返しながら、僕と同じアメジスト色の瞳を覗き込むと棗は頬を微かに赤く染め僕の手の甲に優しく唇を寄せた。

「…梓。永遠に俺と二人で歩いていってくれる?」

「…棗、それって…もしかして…プロポーズ…?」

「…もしかしなくてもそうだろ。改めて訊くなよ…照れる。」

棗の優しい愛が伝わってきて、僕の瞳からは一粒の涙が溢れ枕に滴り落ちていく。

「…はい。永遠に、棗と二人で歩いていくことを誓います。」

「…良かった。俺…心から幸せだって感じたの…今日が初めてかもしれない。今まではいつも寂しかったから…。」

瞳を僅かに潤ませながら僕の肩を抱き寄せる棗が愛おしくて、僕は棗の胸に頬を寄せた。


君がまた寂しくなったら、迷わず僕にその寂しさをぶつけて。

我慢なんて、もうしなくていいんだ。

君の全部を受け入れて愛し貫く覚悟なら、もうできているから…――。

「…棗。大好きだよ。」

「…ああ。俺も大好きだよ。」

きみの孤独の半分をください
(もう二度と、独りぼっちになんてさせないから)

end.



今回は棗梓でした。全体的に納得のいかない仕上がりになってしまった。
でも時間をかけたからか、書き上げた今ではすごく愛着が湧いています。
プロポーズもさせちゃったし、シックスナインもさせたし。進み方は遅かったけど楽しかった(笑)
棗梓をこんなに長く書いたの初めてですね。今までのは恥ずかしすぎて読み返してすらいません(笑)
読んで頂きありがとうございました。皆さんに少しでも気に入って頂けたら、嬉しいです。

素敵なお題は寡黙様よりお借り致しました。ありがとうございました。



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