あのねェ、レイムさん
なんだ
君と一緒にいたいんです
…何を言い出すかと思った、そんなまじめな顔をして
本気ですよ。きみとずっといっしょにいたい

ぎゅう、と腕に力が込められる。先程から私の背中から胸にかけてしなやかに巻き付いて放そうとはしない腕。指先では私のスカーフを手繰り、柔らかい生地にも皴がつくのではないかというほどに強く握る。少しそれを引かれて首に伝わる負荷と、項に後ろからふぅ、とかかる吐息。単語の途中で綴るのをやめた万年筆のインクと古い新しい紙、それに混ざって酷く甘ったるいカカオの匂いがした。

だって、きみが好きなんです
知ってる、私も同じだ
それも知っています
なら、どうしてそんなことを今更。

不安定にせつなげに揺れるかすれた息は 私ときみが別であるために、と紡いだ。

わたしは君と共に在りたい。でも、好きすぎて、ずっと一緒じゃなくて、もう同じものになってしまいたいときがある。だから「別」であることを確認したかったんですヨ。「一緒」は「別」じゃないといけませんから。

よくわからないな。言うとそれでもいいですよと返る。

ほら、

「こうして君に抱き着いていますよね、静かなら自分の心臓も相手の心臓も脈打つのがわかる。くっついていれば温もりも伝わる。そのうちに鼓動の重なる時がきて、触れている部分の体温も同じになるでしょう。そうするときみとわたしの境界なんて無いのも同じなんです。だから、今この私が口の中で熔かしているチョコレートが蕩けて飲み込まれていくのと同じように、君に触れた私も熔けて同化してしまうんじゃないか、って子供みたいに怖くなる」

いや、ばかみたいに、かな。

背中で彼は笑った。随分と年上のはずなのに、困ったように笑った声は落ち着いているようでどこか幼い。
未だ胸元で揺れる拳をそっと開いてやり、うしろを向いて視線を合わせるとやはり迷子のように力無く眉を緩めた白い顔がある。俯いた顎を己の指先でく、とあげてゆるやかに唇をあわせた。

嗚呼、あかい虹彩がちらちらと瞬くようだ。白銀の髪を梳いて、名残惜しいように舌に残っていたカカオを吸い取って口をはなす。ぱしぱしと酸素不足に揺れる頭でマゼンタをみる。

私にはよくわからない。

ぎう。力をこめたその腕は彼の背中を縛っている。おちつかなげにそうですか、と身を震わせた彼に私は言う。

「でも、同じになるなら、なればいい」

のみこんでやろう。

『ばかみたいに、かな』
その表現がぴったりと当て嵌まる表情で、私と彼は。
















弐壱肆事変
(ゆるやかで幸せな戦争)
(宣戦布告は、ない)


title:水葬
10.02.08

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