「ザークシーズ」

ふわり、風がながれる。後ろから数年前にゆったりと落ち着いた声が私を呼ぶ。この名前にもよく慣れたものだ。このレインズワース邸で手に入れた私の名。それは社交と称して行われている舞踏会の喧噪から技と離れていた私に、理由もないのにやけに皮肉に届いた。
ベランダの手摺りに指を滑らせて振り返った彼はもう私の背を少しばかり抜いている。一歩こちらに来るごとに、逆光に眼鏡がちか。と明滅。お前はいいのかと具体的な内容もなく尋ねられて寸分困惑した。

「なにがです」
「参加しないのか」
「私は踊れませんし、帽子屋と契約して外見年齢も止まりましたから社交の場には出ないのが原則でしょう」
「ああ、そうか…」

そうだったなと頷いた彼はやはり少しだけ高い位置から私を見下ろす。

「だが…かなしそうに、みえたから」

は、と見上げた後ろに控える光のせいでくらくなった彼の瞳と、逆に鮮やかに赤く燃えているであろう私の眼がかちあった。その真逆のコントラスト。なにか声色が責めているような重みをもっている。私はそんなに暗い顔をしているのだろうか。訝しがりながら今だけは重苦しくみえる彼の顔を見つめる。ああすまない、少し心配になっただけなんだ。彼は慌てたように表情をからりと変える。陰っていた中に ふ、といつもの柔らかい羽毛のような色が見えて安心した。

「…そんなにかなしそうな顔に見えますかネェ」
「正直に言えば、見える」
「踊れないからですかね…」
「何故踊らないんだ」
「さあ、わかりませんよ」

多分私は人に合わせられないくるくると舞う人々を愛でることもそれを真似ることもできるのに、合わせようとするとおかしくなってしまうようです。いつも中心や外でおどけているだけで輪には入れないのが私なんですよ。私が異常なのでしょうね、むかしもいまも。

そういってやわらかく自らを嘲笑うとかれの眉間にぎゅうとしわが寄った。

「…それは周りが輪にいれなかっただけではないのか」
「それでも入れないだけの理由があるでしょう?」

実は無意識下で血の匂いを嗅ぎ取れるんじゃないですか、犬みたいに。ようやく笑ってやるとそれでなくとも鋭い目の端がもっとつりあがる。君が気にすることではありませんよ、事実ですからね。さらに笑って言ってやると反比例するように眉間の影がふかくなった。

「それなら、」
「はい?」
「頼りなくとも、少なくとも私だけはお前を受け入れてやる」
「、そんなことは…」
「無理じゃない」
「きみはしなくてもいいことですよ」
「お前のことなら他の者より知っている!」

舞踏だろうと何だろうとお前の癖を、思いを汲んで合わせてやる、私が。だから少しでいい、楽しそうに笑ったらどうだ。
そう早口で言い切った勢いにおされて、私はとん、とんと数歩引いた。手摺りに腰があたる。

「…、ばかじゃないですか」
「ザークシーズ、」
「いつも笑ってますし」
「演技するんだと私が小さいときに言っていただろう」
「だいいち私に合わせるなんてただ振り回されるだけじゃないか」
「いつもと変わらない」
「きみはまだ若いのにこんなオジサンに構っていては」
「若いからだ」

その即答の渦に思わず苦笑した。そう、そんな顔だと言わんばかりに三白眼が満足に綻ぶ。

「その答えとその顔が青臭いんですヨ」

減らず口を叩いた自分の性格がやけに恨めしかった。まあいい、負けました。そうして笑んでやると彼はす、と私の手をとった。

「美しい方、どうか一曲お相手願えませんか?」
「しょうがない子ですネェ、しっかりリードしてくださいよ」

君の掌で踊るのも悪くない、きみだから、きみとしか。



世界のはて
(拒絶された終焉)



***

本当にながらくお待たせいたしました…!私の土下座で赦されるならばいくらでも!申し訳ありませんしかも踊ってない(撲殺)
多分レイムは17歳とかそのへんです。やけに気障っぽい。ブレイクの過去は知っています。勿論ブレイクの目はまだ見えてますよ!
言わずもがななワー/ルズ/エ/ンド/ダン/ス/ホールの替え歌から着想…多分私は某さんにも土下座すべきですね。神様ありがとう…!!

本当にリクありがとうございました…!

10.08.03

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