※病みギル



お前の指が、すきだ。

彼はそう言って私の手を掬いました。その眼は朦朧とただ指を見ています。一瞬だけ常軌を逸した様に光を失った眼に、ぞくり。私の背筋は正直に痙攣しました。

指、だけですか。君が私を好きなのは。

思わず、くちびるを震わせていたのはそんな言葉でした。彼が怪訝そうに指から目をはなし、此方を向きます。その眼は今度は大きすぎる赤子のように、何もわからない、といった風情で此方を向きました。無垢な、ひとみ。私に向けられるはずのない、彼ももはや向けることができるはずのない、その恐ろしく純粋なそれ。

だけ、とは?
本当にわからないのですか。
わからない。

怪訝そうに彼は眉間を歪めます。まるでそう、指にしか、指にだけ、自分の愛が向いているかのようなのです。だからこんなにも恐ろしいのでしょうか。
ああ、人を体の一部しか愛せない、そんな狂人の話を私は何処かで聞いたことがあります。君もとうとう、そんな風になってしまったのでしょうか。そのひとは目玉を愛するあまりに愛するひとの目玉を抉ったといいます。君も同じようになってしまって、いつかわたしの指をそっと噛み切ったりするのでしょうか。

よくわからない、ただ、お前の指がすきなんだ。

君はやはりそればかり繰り返しました、私の指をやさしく撫でながら。

私も、君がすきですよ。

呟いてはみたものの、彼にはどうやってとどいているのでしょうか。聞こえてすらいないのかもしれません。彼は、大層端正な顔を恍惚とさせて私の指をいつまでもいつまでも見つめ、撫で続けていました。

「ねえ、きみは私のことがすきなのかい?」
「…俺は、お前のゆびがすきだ」



だいすきな、
(きみは"私"を)
(あいしてはくれない)



10.07.23

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