私は彼にただ頭を撫でられるのも存外すきなようです。抱きしめるだとかくちづけるだとかも嬉しいのですが頭を撫でるというのはまたなんとも違った風で、そうですね、手を繋ぐのと似ているかもしれません。それ以上にはそうそう発展しない、なのに変に身構えたり気になってしまったり、嬉しくてくすぐったい気持ちになったりもします。いつでも彼に触れられるのはとても嬉しいのですがそのなかでも異質、というか。
確かにアリス君のことは笑えませんねェ、と思い出しながら行儀悪く焼き菓子を歩きながら頬張っていると背後から神経質な足音が近づいてきました。

「おい、」
「は、へいむはん」
「ザークシーズ!菓子を食う暇があったら仕事をしたらどうだね!!だいたいものを食べながら喋るな歩くなとあれほど」
「、はいはい」
「っまたお前は!」

後ろを振り返るとレイムさんが額に青筋を立てています。まあいつものことですからもうああいう顔なのだと思いたくもなりますが、彼はパンドラとバルマ家の仕事以外ではとても優しい顔をすることをよく知っているのでそんな訳にもいきません。
そうやって上の空で二回返事をしてしまっているとたちまちがみがみと苦情説教が始まります。私はよくもあんなに早口で噛まないものだと内心感心しながら耳を塞いで聞こえない振りをします。

「こら!ザークシーズ!」
「仕事ならちゃんと終わりましたよォ?」
「嘘をつくな!」
「本当ですよ、ホラ」

ひら、と積まれた報告書の一枚を鼻先で降ってやると彼は動体視力を総動員して辛うじてサインと内容の一部を読み取ったようで、ぐにゃぐにゃと拍子抜けたような顔になりました。

「そ、うか」
「人の言うこと信じないなんて最悪ですヨ?レイムさん」
「っうるさい、お前には前科が山ほど」
「はいはい、わかりましたから」
「だから返事は」
「一回でしょう?わかってます」

にこり。笑ってやったところで ふ、とレイムの腕の影が顔に落ちます。まずい、からかいすぎたかもしれない。そう身を強張らせているとぽんと肩に手が置かれます。ああお疲れ様、を表したいのですね。と私は肩の力をふにゃりと抜きました。

「あたま」
「は?」
「どうせなら頭撫でてくださいヨ」
「な、なにを言ってるんだお前は!」
「いいじゃないですかァ、減るもんじゃないですし」
「―――っ!」

ほら、やって。
いつも彼はこうやって、私より骨張っている手を無理矢理掴んで頭にのせると渋い顔をしながらも撫でてくれるのです。いつも好き勝手に跳ねたり変にかっちりと猫の耳みたいに固まっていたりする髪の毛が温かい指で乱される、ほぐされると共に心まで柔らかくなっていくような。少し乱雑な手つきだとしてもやはりそんな気分がするのです。

「っこれで満足か!」
「ええ…て君、顔が真っ赤ですよ」
「…気のせいだ」
「ほんとですカァ?」
「本当だ!仕事終わったんだろう、早く帰れ!」
「連れないですねェー」

じゃあ帰りますよ。と後ろをくるりと向くと ぐい、と腕だけが引き止められました。あら君が帰れといったんじゃなかったんですか。言いかけた唇はそのまま固まります。

「…甘えるなら、場所を考えろ」

あかい頬のままで、へたれた愛おしい彼はそう告げます。目線がふらふらさ迷う、さまよう。それだけですか。ああそうだが。ますます彼はあかくなります。

「それって、部屋へのお誘いですか?」
「……ティーセットは棚の中だから準備しておけよ」
「いつもの場所ですネ」
「ああ」
「…本当に素直じゃない所もかわらないなァ、君は」

そんな所も大好きですよ。

ああ、笑った私の頬はちゃんといつも通りの色をしているでしょうか。





Pat me on the head!
(頭をなでてくださいな!)



10.07.23
こっそり伊野谷さんに捧ぐ!


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