幸せそうな顔をして、本当にばかみたいに口許を緩めて。

「ほら、クリームが口についてます」
「とってあげますから動かないでくださいヨ」
「…こら、やってあげるって言ってるじゃあないですか」

眼前にいるレイムの側の皿の上にはいつものように苺がころん。と、ひとつぶ転がっている。どうも長年の観察によると最後に食べるのがレイムの癖であるらしい。ちょこ、と申し訳程度についたクリームがやけに美味しそうだ。

その彼は行儀悪く口の端をへろりと舐めて別にいいじゃあないかと文句なのか弁解なのかわからぬ言葉を口にした。普段の言動とは甚だしく矛盾しているのに彼は気づいているのだろうか。いや絶対気付いていない。私はひとつ、ふう、と息をついた。
ああでも、こんな顔をしてくれるのも嬉しいものだ。会社帰りに寄ったコンビニでふたつ、隣で物欲しそうにしていた彼の分もケーキを買っただけでこれならば安いもの。頬杖をついて視線を上げると幸せそうな顔とかちあった。彼はなんだ、とばかりに首をかくり傾げる。

「全く、君は……たまに男らしいかと思えば甘いものがすきなんて、随分かわいいところもあるんですネェ」
「別にいいだろう?甘いものが好きで悪いのかね」
「いいえ、私も好きですし」
「だったらいいだろ」
「別に悪いなんて言ってませんヨォ?かわいいと言っただけです」
「お前が言うと厭味に聞こえる」
「えー、本当なのにィ」

わざとらしく笑ってやると彼はぶす、と拗ねたようにもうひとくちスポンジを掬う。そして私はまた先程と同じところにクリームの付着を確認した。笑いながら親指で拭ってへろりと舐めてやる。彼は頬を染めながら自分にか私にか行儀が悪いなと苦笑した。

「……あまいもの」
「ん?」
「小さい時から好きだったんですか?」
「いや、お前に会った辺りから、だな」
「なぜ」
「さあ、あんまり美味しそうに食べるからじゃないのか」
「へー、美味しそうなんですか」

ああ、なんでだろうな。いやなんとなくだ。うん。そう言って彼は自己完結してただ頷いた。ふぅん。鼻を鳴らした私は彼の隙をついて手の内からフォークを奪う。くるり、と回して近づけ、また返した彼の皿には苺だけ。私の喉を滑り落ちてゆくスポンジを追うようにレイムは恨めしげな視線を鎖骨のあたりに寄越した。

「確かにおいしいですからネェ」
「…これでまずいとか言ったら許さないぞ」
「はは、すみません」
「全く、少しは反省したらどうだ」
「私のお金で買ったんです、文句はないでしょう?」

にや、と笑いかけてやると先程の表情とはまた違う渋い顔をする。菓子を取られた子供と表せば1番しっくり当て嵌まるそれに思わず私は吹き出した。

「笑うなよ!」
「…すみません」
「まったくおまえは…」

ぐちぐちと常日頃の文句を並べ立て始める彼にああやはり旦那さんみたいなのかもな、と思い直して何かが閃いた。

「ああ、君が甘いものを好きになった理由、わかりましたヨ」
「ん、なんだ」
「夫婦は似る、ってね」

どうです、あながち間違ってはいないでしょう。
笑いかけてやった彼は久々に酷く赤面して馬鹿か、と美味しそうにさみしそうに転がっていた苺を突き刺した。




相似形
(ちがうようにみえて)
("核"は同じ)

10.06.05

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -