※現代大学生パロ



『お前、眼はどうしたんだ』

突然音と衝撃と圧迫とに感覚をめちゃくちゃにされた上での初対面(しかもそれは彼が眼鏡まで飛ばしていたためとてつもなく至近距離だったのだ)がそれでは呆気にも取られるというもの。どこかの少女漫画の如く、山のような本と資料とともに階段の二三段上から男が落ちてくるなんて何処の誰が予想しただろう。まして大学構内も不慣れな一回生の上に、階段の段数すらも把握していそうな二回生が墜落してくる、などと。私は眼をぱちくりさせて思わずいつものようにはぐらかすことも放棄して、ただただ問いを無視して感想を述べていた。

『……君は変なひとですね』




ああ今思えば。あの時に落ちて頭を直撃した図版が私の頭のネジを半数ばかり飛ばしてしまったに違いない。初対面の印象が重い、と近い、それに『変なひと』としか考えられないくらいに間抜けなものだったのに、今はこんなにも愛おしく、大切なのだから。
だいたい無防備な姿を人に晒す、という意味でも同居までするなんて昔の私では考えられなかったのに今現在、彼は私の肩にもたれてすうすうと寝息をたてている。眼鏡の縁が私の肉付きの悪い肩には痛い。外してやろうかと動こうにも、こうもしっかりと寄り掛かられていては。

「…レイムさん?」
「…」
「起きてます?」
「……ん」

確認のために話し掛けてみたがやはり寝言程度の返答。これはだめだ。珍しくこちらが溜息を吐くと短く切られた彼の前髪が僅かに震えた。あまりの至近距離のせいだ。あの出会ったときのように。

「……そういえば、君はおもいっきり落下してきた後に眼のことを聞きましたネェ」

他の人は絶対憚って聞かないことを。
覚えているのは近い、ことと彼のシトロンの光彩がきゅうう。とすぼまったこと。あの時に馬鹿みたいに瞳に吸い込まれそうだとか凡百陳腐なことを考えたのがいけなかったのか。きみが、あまりにやさしく、悪気のかけらもなく心配そうに聞いたからいけなかったのか。やはりあの時に頭のネジが半分どころでなく全て吹き飛んでしまっていたのか。

きっと要素が全て揃ってしまったのだろう。ともかく私は面白みも何もなく言えば『少女漫画の主人公の如く安易に恋に落ちて』しまったのだ。

「ねえレイムさん……あのあと考えたんですけどネ、」

もしも、あのとき。

「半分だけ、ずっと眠っているとしたら、とかふざけて答えていたら。君はどうしましたか?」

眠り姫のように、口づけで起こしてくれたでしょうか。なんて、ね。
眠ったままと思って話しかけるとやわらかな色の睫毛がふるえてすこし涙でふにゃふにゃとした三白眼が現れた。

「……それで起きるならな」
「あら、起きてたんですか」
「今さっき起きた」
「盗み聞きなんて趣味悪い」
「お前が勝手に言ったんだろう」
「開き直りですか、ますます最悪ですネ」
「うるさい!」

だんだんと自ら墓穴を掘って行く彼の顔はほのりと赤くなってきた。悔しそうに鼻を擦ってから彼は じ、とこちらを見る。

「お前、目はどうしたんだ」
「…昔の事故で」
「そうじゃなくてだな」
「…じゃあ」

質が悪い、でも腕も悪い魔法使いにかけられた魔法で半分だけ眠っているとしたら、君はどうしますか。
君の仕掛けられた罠に乗ってあげようとにこりと微笑むと彼は少しばかり苦笑する。

「では、起こしてみようか」

す、と予想通りに触れ合った唇に予想通り眼は開くはずもなく、私は思い切りふきだしてしまった。

「きみ、本当に馬鹿じゃないですか」
「…言うな、今更恥ずかしくなってきた」








永遠平和の為に
(永遠の眠りを)

10.05.23

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