リネンの隙間から口づけがおとされた。指にひとつと、裏返した手首の柔い皮膚にひとつ。大事なものだと口で言われるよりもやわらかく直接的な、告白。思わず身じろぐと彼は笑い、枕と髪がくすくす音をたてた。

「いきなりなにをしてるんですか、恥ずかしい」
「いつもは気にせずに、寧ろ人前で引っ付いてくるお前よりはいい」
「二人だからこそ恥ずかしいんでしょうが!」

むきになって口調を荒げた私には、悪かったなと苦笑交じりの謝罪が帰ってきた。同時に伸びてくる腕。デスクワーク派のくせに身長ばかりはあるものだから、と考える間に囲われた輪の中は広い。全く君は結局謝っても恥ずかしい人だ。きっとこのあと睦言のひとつふたつも呟くに違いない。苦々しいといった風に形作られた思考は同じく、そして正反対の眠気と恥ずかしいような嬉しいような情にふわりふわり蕩ける。腕にかかる重みだけが現実に引き止めているようだ。

数分前、一緒に寝ましょうよと他意もなしに潜りこんだ掛け布団の中は彼の温度と匂いとで満たされている。体表面からさわさわと血流に乗るのはいつもより高い三十六度七分、きみの体温。す、と息を吸うだけでも行動に、情動にすら、あたたかい君が染み込んでくるような。先程の口づけと自らのどこまでもひねくれた口調と思考と。てんでばらばらに繰り返されるそれにはやはり心は浮き立つ方向へ傾く。温度に拍車をかけられて、眉頭に業と寄せた呆れと恥とは輪の中ですぐに緩んでしまった。きっと私も相当恥ずかしい頭の中身と顔とをしているにちがいない。宙に浮いて、しまいそうだ。
嗚呼。

「……本当に、はずかしい」
「一緒に寝ると侵入してきたのは」
「私です、わかってますヨ」
「…なにを拗ねているんだ」
「別に?さ、早く寝ましょ」

はぐらかしてもそもそと私は彼に引っ付いた。浮いてしまう。きっと、恥ずかしいといいながらも。

(私はきみに触れたいんだ)

否、触れ合いたい、か。きみが、足りない。布団から間接的に染みるだけの体温だけでは。
寝ましょうと自分でいいながらの沈黙がやけに軽く感じてしまう。重い沈黙というのが一般的なのにどうしたのだろう。これでは本当に漂って天井にでもぶつかってしまうのではないか。安直な表現はいい、ああ、つなぎ止めて。

「……きっと私はきみに頭でも撫でて欲しいんですよ」
「そうか、なら」

ぽん、と頭に手が置かれる。その僅かな重みで少し浮きそうな気分が落ち着いた。

「……あと、抱きしめて」
「うん」
「口づけて、ほしい」
「ああ、」
「………特に、拗ねてる訳じゃないんですけどね」
「分かってる」

(まだ、足りない気がする)

「レイム、さん」
「ん、」
「……だいすきです」

手のさらりとした感触が頭から頬を掠めて通りすぎた。近づいた肩に額をすり。と擦り付けるとお前は猫みたいだなと彼が笑う。好きなときに思い切り甘えてきて。構わなければならないこちらの身にもなれ。低いような高いようなその声に安心して、落ち着いてまどろむ私はまた恥ずかしいなとつくづく思った。

ああ、私はなんという幸せ者だろうか。こんなにも近くにいるのに、きみ不足でしにそうだ。



割り切れない
(きみが足りないから)







***
345打、500打と踏んでくださった寡音さまに捧げます…!今の私には精一杯の糖度なのですが如何でしょうか。書いてて私が恥ずかしいです、是非とも私が表せなかった密着度を脳内補完してみてくださいな(苦笑)
遅くなりましたがリクエストありがとうございました!

10.04.05

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