2020 桜京涼 桜重ね | ナノ
桜重ね
[企画2]


「ああ、それならあいつは確か師範クラスだったか。智幸は」
「……前に野点をした時に言ってたな」
 タバコを片手に、リビングからキッチンに向かう大きな半裸の背中に涼介は声を投げかけた。カタンと灰皿を出す音がして、先ほどまで熱気を纏っていた逞しい体躯はリビングへと向き直った。
「まあ、あいつのところも伊勢の桑名藩だったか。古い歴史のある家だからな。そういうのもいろいろやらされて来たんだろう」
 リビングの淡く落とした照明を受けて、陰影が濃く刻まれた彫りの深い顔はふうーーー……と煙をキッチンにある換気扇下で吐く。白い煙は幾筋に流れて渦巻く音の中に消えていく。
「お前の家もそういうのあったんじゃないのか?」
 片眉をあげ、顎をしゃくって話を促す。それを受けた乱れたベッドの上の涼介は、汗で湿った髪を掻き上げ、疲労と甘さ混じりにああ……と声を出した。


「高校生以来かな……親戚に呼ばれて」
 すっと出した手が茶碗を取る。緋毛氈の上に泳ぐような白い手は眩しく目に映る。飲み干す喉が見事な線を描く。
「……けっこうなお点前で」
「そんなかしこまったアレじゃねぇぞ」
 少し前のお茶や野点のブームから、キャンプやアウトドアで気軽にお茶を楽しむのが人気になった。手軽に茶を立てられる野点セットなどもアウトドアショップから売られている。今回はせめて茶碗は益子焼のものをと用意した。
「気軽に楽しめばいいんだろう?その方がいい。作法では先に食べないといけないらしいがお菓子もお茶と一緒にちょっとずつ楽しみたい」
「あれか。茶懐石でない懐石料理でも白飯が後に来るのが許せないと言っていたのと同じか……」
「そうだ。俺は同時に食べたいと言ったら変な顔をされるが」
「……まあお上品なおぼっちゃんから、そんな庶民的な要求が出るとは思えねぇだろう」
「ご飯にはおかず、おかずにはご飯。何もおかしい事はない」
「……まあ……な」
 きりっとした顔で、ご飯だおかずだと言いつのる涼介を苦笑して眺める。京一はあらためてこの麗人とも言える美しい顔から幼いとも取れるような文句を聞いて頬が緩む。
「もう一服どうだ?」
「いただこう」
 明かりはキャンプ用のランタンを2つ置いてある。その明かりに照らされた大きな節くれた指が、それでも繊細に動く。
 棗を開ける小さな音。そして匙が鮮やかな色の抹茶を救い上げ、茶碗に落として縁に触れる。乾いた軽快な音が深々と夜の森の中に響く。茶釜の湯を柄杓から茶碗へ注いで、軽やかに茶筅が茶を混ぜる音が涼介の笑みを引き出す。
 一連の動作が落ち着き、作法には慣れていない筈なのに動きが優雅だった。
「……やはり似合うな」
 視線を感じて京一は気まずそうに涼介へと目を遣る。
「そうか?まあ、本格的に茶席をするならそうなんだろうがな……だが……まさかこれを着ろと言われるとは思わなかったぜ」
 すっと差し出された茶碗を涼介は手にする。
「ふふ……よく似合うぞ。着付けも勉強してくれたし、お前も乗り気でいいじゃないか」
「まあ……お前の着物姿は絶品だからな……」

 雄壮に咲き誇る、巨大な桜の木の枝から夢のように舞い落ちる。
 緋毛氈の赤に映える、寒さ避けの似せ紫色の羽織の下は、濃い藍色のような裾の深縹(こきはなだ)色から紅桔梗(べにききょう)色、竜胆色(りんどういろ)と。濃紺から霞んだ白へと様々に色が変化していく。その見事なグラデーションの上に白く線の細い首筋と端正な顔、少し伸ばし気味になっていた艶やかな黒髪が揺れて見える。ほっそりとしながら凛とした見目もしなやかな動きも、男や女の域を軽々と超えた「美」が見てとれる。
 そして大柄のもう一方の着物は紅消鼠(べにけしめずみ)色の羽織を着、その着物は漆黒をもとに、黒霞が雲母のような模様を描く。夜に見る山波に見える絵柄が裾から腰に段々に描かれ、滅紫(けしむらさき)色の帯びから上には雲が慎み深くたなびく様が描かれているようである。厚みのある胸板も張り出した肩も、しっかりと腰の据わったさまも確かな「男」を感じさせる。
「寒くないか?」
 湯気立つ茶釜を前に京一は涼介に尋ねる。涼介は嫣然として笑むと、
「ここはお前の地だ。羽織どころか着物を脱いでも寒くはないぞ」
 そう。さっきから周囲を生温かい空気が包む。茶釜からは湯気が立つのになんとも不思議な光景だ。降り散り舞う、桜の花片も不思議な軌跡を描いている。それはまるで意思があるようにゆっくりと周囲に漂よっている。
 京一はすっと羽織を脱いだ涼介を眩しそうに見つめる。
「……全部、脱がせるのは惜しいな」
「ああ……着せたまま、たっぷりと鑑賞してくれ」
 にじり寄る二つの手と膝。笑い声が細く響いたと思ったら、何かに塞がれたようにくぐもった。そして胸の奥から吐き出すような安堵と甘さがあからさまな溜息。
「あ……ふ」
 絡みあう舌を、互いの性器をねぶるようにしていたらそのまま下半身に呼応する。背筋を伝って刺激が性感を次々と開いていく。着物を崩して肌に触れていく厚い手も、逃がさないと掴み、それでも優しく顎を捉える節くれた指も。
「番え、契れと桜が言っている……涼介」
 望むところだと。
 撫でまわされる白い太ももが濃紺の着物に映えて鮮やかに男の目を焼く。
 緋毛氈の紅が肌に映って。いや、それは発情した肌の色なのかと。まるで口づけで印を押すように桜の花片が降り落ちる。
「ああ……ああ……京一……」
 耳を散々舐られた。耳殻も孔も舌で犯されて、濡れた音と雄の余裕のある捕食の息で身震いが止まらなかった。自分から乳首を露出させて愛撫をねだる。夜の山並みを思わせるような黒い着物を着た大きな男は、笑いながらのたうち喘ぐ紅い唇に指をくわえさせ、濡らした指で乳首を弾いてみせた。
「アッ……ア!」
 跳ねて身を捩る。帯びは既に器用にほどかれて撓んで纏い、着物が更に乱れる。白い肌は上気して、ぴんと尖った桃花色に色づいた乳首が、厚みのある浅蘇芳(あさすおう)色の舌と指に何度も弾かれこねられる。走る電流のような甘い痺れに肢体は仰け反り、更に突き出す尖りをたっぷりと愛撫される。白磁色の肌が鮮やかな、赤みのある桜色に変化していく。彩が幾重にも重なる。そこに降りかかる薄い桜色の花びらと、所有の更に紅い色。
 胸から腹まで着物は乱れ、濡れて勃起する中紅(なかべに)色の性器まで外気に露出させられた。
「あ、……いや…………、こんな……の」
 着物の合わせから、欲情しきって愛撫を強請り、雫を垂らしながらピクンピクンと揺れる性器を晒されている。恥じいるのは悦があるからだ。それをも興奮材料にして、本当はもっと暴かれて開かれてはしたなく悦ぶ自分を見て欲しいと。
「……言ってる事が意味不明だぜ涼介……こんなに濡れておっ勃ってて。舐めて扱いて欲しいのか?」
 あう、あ、と口を喘がせている涼介から甘えたような、それでいて切羽詰まって。更には淫らにも感じさせる声が、
「して…‥くれ……俺のいやらしいのを……お前のも一緒に……」
と言った。


 濡れた音が断続的に響く。桜舞い踊る中、開かれた足は夜目に白く輝いて見える。何度も堪えようがないように揺れて、つま先が伸びたり縮まったりと忙しい。
「ああ……あっ!」
「……お前は本当にこうされるのが好きだな」
 弾け出た白を舌が掬い舐める。深々と挿し込まれて蠢く指は既に三本目だった。
「好き……、でも、もっと」
 涼介は、目の前で黒の着物の合わせ目から猛り出て揺れる重い性器に舌を伸ばし、
「この美味しそうな×××を俺の××××に早く……たくさん突っ込んで欲しい」
と、重く揺れる撓みを手で揉み撫でまわし、張り出して濡れる先を味わうようにうっとりと舐めまわした。

 
「……ああっ……気持ちいいっ……もっとっ!!!」
 執拗な愛撫に、もの欲し気に熟れた赤みの強い長春色(ちょうしゅんいろ)の粘膜が悦んで筋張りを飲み込む。血管や筋が浮き上がる、隆々とした柴染色(ふしぞめいろ)の男性器が上から下へと濡れ光ってリズミカルに出入りする。
「ああ……っ!京一っ……!俺の男…!!」
 着物をはだけで貫かれる事を、全身で悦んでいる。切なげな喘ぎは甘くねだり、男の欲望を擽るから器用に折り畳まれてさらに深く穿たれ、嬌声を塞がれてくぐもり啼く。
「あふッ……!ふっ……!ふあっ……!!」
「ふ……いい具合に仕上がってるな……たまんねぇ締め付けだぜ……そんなにいいか?」
 京一の力強い、それでも絶妙に快楽を引き出す律動に揺らされながら、突き出された舌を叩き合う。
「いい……っ!もっと、もっと突いて……!」
 泣きそうな声なのに、甘い愉悦があからさまに乗せられて京一は苦笑する。
「茶筅のように回してやろう……ああ、イイ××××だ」
 連動して更に奥に引き込もうとする粘膜を、抵抗するように掻き混ぜてやれば、ひーひーと鼻から抜けるような荒い息が繰り返される。
 熱い肉棒が、味わい尽くそうと蠢く内壁の全てを溶かそうとと螺旋を描いて出入りする。
「ふぅ……んあは、アッアッ……ああっ……っ……っ……」
「限界か?涼介……中がひくついて来てるな」
 快楽が大き過ぎて夜空のような黒い瞳は朦朧と霞み、閉じることを忘れた口からは唾液が垂れている。京一は更に涼介を追い落とすように、雄の余裕で笑う。容赦はせずに間断なく、溶けてそうな蜜孔を突き崩すようにストロークを続ける。涼介の肉の全てはただ果てしなく叩き込まれる肉棒を抵抗することもできずに受け入れるだけで、しまいには股関節がびくびくと痙攣しだす。
「ああっつ……ああっ……イイ……気持ちいい……も、う……っ、も……ア……奥、ぅ……ア、いいっ……良過ぎる、おかしくなっ……ああ……」
 涼介は奔流のような快楽に我慢できずにだらしなく、小さな射精をし始めた。京一は上体を起こし、それでも追い詰めるように激しく腰を使う。粘着質な、それでも発情して水分の多い音をさせて蜜孔を熱塊がスムースに出入りする。眼下でいやらしく跳ねて、精液を撒き散らす涼介の性器を掴んで、ぬちゅぬちゅと柔らかく揉みこみながら扱く。
「んあっ……あああ―――――……ひ、ああああ……っアッアッアッ……」
 桃色に上気した首を見せつけて背を逸らし、烏羽色(からすばいろ)の黒髪が赤に散る。桜の欠片が舞い落ちる中、濃紺色の着物に紅い緋毛氈に、白の飛沫が煌めいた。


「あふ……ア」
 自分で飛ばしたそれを指で掬って舐めて見せる。とろりとした目でそんな痴態を見せつけるから、体内奥深くに欲望を叩きつけたのにまだ萎えない。
「このま、ま……」
 ぐりんっと内部を刺激すれば再び上がる嬌声。挿れたまま、器用に体を入れ替えて真白の尻を突き出させる。深い紺色の着物を纏いつかせ、己が猛身を填めたまま震わせる尻肉を掴み、目の前を誘うように舞う桜の花びらに気を取られて視線を向ける。
「……ほう」
 茂みの向こう、池があってその奥のこんもりとした場所に巨大に咲き誇るエドヒガン。見えぬはずの満天の星々と殊更明るい満月。生ぬるい風が湿り気と匂いを運んでくる。
「……」
 池はぼんやりと。満月の光を浴びて輝く桜を映す。降り落ちる花弁を湖面に揺らして、まるで池が中から輝いているようだ。
 少しそちらに気をとられると、涼介のから不満げな催促する声とが漏れ、尻が早く掘って欲しいと震えた。
「わかったわかった。そら、いやらしい××××をたっぷりと突いてやろう」
 浅く深く。強靭ながらも巧みに腰で肉棒を突き入れれば、すぐに内壁は悲鳴を上げて悦ぶ。しゃぶりつくすディープスロートのように、頬張るように引き入れられて持って行かれそうになる。
 尻だけあげたはしたない姿で、黒髪を揺らして貪欲に男性器を味わおうと腰を蠢かす涼介は、切なげで悦楽に夢中な声を止めない。
「いい、こっ……アア……見て……こんな」
 双丘を開くように自分で尻肉を掴み、自分の蜜孔が飲み込むところを京一に見せつけようとしている。
「愉しんでるな……」
 りゅっくりゅっく、じゅぶじゅぶと滑らかに突き入れながら、漂い酔わせる芳香は性臭だ。誇らしげに咲き乱れる桜の花も性交をしている。その桜にも池からも何某かの意識を強く感じる。

 性交を見せつけて、精を捧げてやろう。

 京一はにやりと口端を引き上げると、四つん這いだった涼介の体をぐいっと持ち上げた。
「あああっ……!いや、あ」
 桜に向かって開脚した涼介の尻の間に狂暴な性器が容赦なく、てらてらと濡れ光って出し入れされる。筋張りが、粘膜に見えないくらいの速さで打ち込まれては吐き出され、重い睾丸は軽やかに叩きつける。
「あっ!あっ!……見られて、る!あ、アアッ……!」
 自分で尖った乳首を弾いて、この世のもではない何者かに見られる悦びに蕩けている。
 着物は器用に身体にかかったまま、はだけていたぶられてる乳首と、合わせ目から涼介自身の紅色が鮮やかな濡れた性器が揺れ、下からは凄まじい速さで打ち付けられる結合部だけが見えている。
 たっぷりと粘膜が潤い擦れ、ぐちゅぐちゅと音を立てる。喰い合うような発情の熱でそこはじっとりとした湯気が出そうなくらいだ。濃い色の着物の合わせ目から曝け出されて見えるので、月明かりに濡れ光って発光しているようだった。
「ア……っ!アア……っ!」
 揺れながら涼介は桜の木に、池に手を伸ばす。花弁にまみれて逞しい男に抱かれ、猛り狂った肉棒に浅ましい秘所を貫かれ、淫らに快楽に溶けた顔はどれだけ滑稽に映るだろう。
「涼介……見てもらえ……こんなお前をっ……!」
 ストロークがいっそう激しくなる。肌を桜色から桃花色に上気させ、黒髪を揺らして涼介は愉悦に笑い叫んだ。
「ふは……ふ、ア、俺を見ろ、こんなにされて、京一に愛されて、最高に幸せだっ……ああ、京一……っ!ア、イクッゥ……!」
 
――――――――愛する男にこうやって抱かれている。ずっと望んでたろう?

「こっちもっ……イクぞ!」
「ああっ……来て、××××の奥に……お前の×××から出してくれっ……アッ……あは、あ……!」
 呼応するようにまた白の精が涼介の性器から飛び散り、深い藍と緋と、桜の花びらに重なる。
「はっ……どくどく出てるぞ……俺のは美味いか涼介……?」
 荒い息をして。ぐったりと顎を天に向け、それでもがくがくと揺れる涼介の耳に掠れた声を注ぎながら。
「ふ……あ、あつい……あ……美味しい……」
 ズクリズクリと熟れた粘膜の中に、何度も潜るように精液を送り込む。
「アアッ……は、あ……はあ……」
 腰を引くと弾くように肉棒は飛び出て、鎌首を揺らして精を垂らす。
「京一……京一……」
 涼介の慄く性器からもだらしなく、濁った白は流れて垂れている。睾丸の下、散々穿たれてぱくりと開いた中紅色の粘膜からも、とろとろと京一の精を垂らし。濡れ光る糸が重く繋がって、射精を終えてびくんびくんと揺れる京一の狂暴な性器へと辿る。

 混じる白い精――――白い血を捧げよう。こうしたかった、されたかった想いに。

「ふふ……ふ」
 口づけをして甘く。震える睫毛に煌めく雫。小さな声でただ呟き。
「好き……京、一……好き」
 その声には懐かしい幼さが混じる。
「……俺もだ、涼介お前だけを――――――……」
 愛の言葉を捧げると、突然に生温かい風が地から巻き起こった。
「愛し…………」
 狂ったように舞い散る幾千もの桜の花弁と、黒の着物、紺の着物が二人を隠すように風に巻き上げられ、たなびき舞う。夜の濃さに淡く光って流れる天の川、畏怖さえ感じるほど幽とした大きな満月と。
 輝く大きな桜の色が。彩が、夢のように重なり混じる。
 
 程なくして、少し経てばまた一服。
 それはそれは見事な、桜重ねであった。

                              了    2020/04/14






挿絵全体図



[企画2]                          

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -