歯磨き粉とデザートテレビ番組が深夜放送に切り替わる頃、どちらからともなく寝る支度を始めた。
狭い洗面所はやたらと寒いから、行儀悪く部屋に戻って歯を磨く。
さして気にもせず歯ブラシに乗っけた歯磨き粉を口の中に含んでから、その甘さにがっくりと脱力した。
(またやられた)
また先を越された。
鼻孔をくすぐるのは、ヨリの好きなミントの香り。
歯磨き粉がなくなりそうだってのには、もう随分前から気付いていたのに。
食べ物の好みや洗濯物のルール、一緒に生活するようになって、色んな習慣を互いに納得のいくようすり合わせてきた。
でも、こればっかりは。
(こう甘いと、歯磨いた気になんねぇんだよなぁ)
あーあ、と心の中で小さくため息を吐く。
隣のヨリを見下ろせば、ちゃっちゃと歯磨きを済ませて洗面所へ戻ろうとするところ。
その顔はどこか嬉しげで――まぁ、そうだよな。
大好きな“甘口”を楽しめたんだもんな。
ああもう、だなんて、俺も急いで手を動かす。
甘い甘い甘い甘い。
甘さが口いっぱいに広がる。
ああ、ダメだ。甘過ぎる。
食後のデザートだ、これは。
それ以外の何ものでもない。
それでも、自分専用にと新しいものを買って来ないのは、何も不経済だという理由だけではない。
ヨリが嬉しそうな顔をするなら、まぁそれでいいかと。
「しんぱっちゃん、甘い?」だなんて、悪戯っぽく笑う顔が見れるなら、それでいいかと。
妥協してしまう俺は、このところ連敗続きだった。
(ほんと甘い)
惚れた弱みだと、もう一度諦めの吐息を落としてから、口を濯ぐ為にヨリの後を追った。