063.5 恋※【064 媚薬】のパラレル。なんだか乙女な二人。----------
*side:千鶴
「お帰りなさい、沖田さん!」
いつもより少し早めに起きて、沖田さんの部屋に向かったら、ちょうど部屋から出て来る姿を見つけて駆け寄った。
結局、しどろもどろに沖田さんが居ないことを誤魔化して、土方さんに余計怪しまれてしまったことを謝ろうと思って口を開いたのに、振り返った沖田さんの表情があまりにもいつもと違うから思わず口を閉ざしてしまった。
「ああ、千鶴ちゃん。おはよう」
ふにゃりと笑うその顔は余りにも無防備で、まるで別人のよう。
心なしか頬が赤い。
「大丈夫、ですか?」
「どうして?」
「その……少し、お顔が赤いので」
そう?なんて首を傾げる沖田さんは、やっぱり少し変。
けれど、継いだ二の句に私は耳を疑った。
「いま……なんて仰いました?」
「恋かなって、そう言ったんだけど」
聞こえなかった?
ゆっくりと柔らかく笑むその顔は、朝陽を受けてキラキラしている。
いいえ、聞こえていました。
ただ、沖田さんの口から“恋”だなんて言葉が出て来るとは信じられなくて――
以前、永倉さんが沖田さんは女に興味がないんじゃないかって仰っていたことを思い出す。
花街に行っても、女を買う姿を見たことがないって。
その後、こんな話女の子に聞かせるものじゃないって慌てて謝って下さったけれど、確かに沖田さんが誰かに恋心を抱くなんてちょっと想像出来なかった。
ただ、近藤さんを刀になる為だけに生きている、そんな感じだったから。
いつもよりずっと柔らかい口調で沖田さんは言葉を続ける。
「千鶴ちゃんは、恋をしたことがある?」
「いえ――ありま、せん」
一瞬、脳裏をよぎった凛とした顔を慌てて押さえこんで答える。
「そう、じゃあ君に訊いても分からないね」
僕にも分からないけど。
でも、なんだかドキドキして落ち着かないんだ。
そう言いながら、そっと沖田さんはご自分の胸を押さえた。
その仕草に、なんだか私までドキドキしてしまう。
「原田さんなら、ご存知かもしれませんね」
女性からとても人気があるもの。
私の言い分に、沖田さんも同意してくれる。
「そうだね。或いは土方さんか――あの人もあれで、随分女の子を泣かせてるから」
ずきり。
心が跳ねる。
今度はさっきとは違うドキドキが、私の胸を支配する。
ずきり、ずきり。
まるで傷が痛むような鼓動。
「いつか、機会があったら訊ねてみるよ」
じゃあね、と手を振る沖田さんに手を振り返して、私も胸を押さえた。
ずきり、ずきり。
それでもなかなかその痛みは消えなかった。