034.5 静かな夕餉※【035 時渡り】の数刻前----------
▽side:総司
「平助くんが居ないだけで、なんだかすごく静かですね」
新たに隊士を募集する為に、平助が東下してから暫く経つ。
以前よりも幾らか静かにおかずの争奪戦が行われる広間で千鶴ちゃんがぽつりとそう呟いた。
「なんだ、千鶴は平助を好いているのか」
左之さんがからかう。
真っ赤な顔をして千鶴ちゃんはそれを否定しているけれど――
ちらりと上座に座る土方さんを窺った。
その無表情からは何も読み取れない。
その癖、動揺していることは手に取るように分かった。
だって、味噌汁椀と間違えて湯呑みに箸を突っ込みながらお茶をすすってむせ返ってるくらいだし。
「副長、それは湯呑みです」
「分かってら!って総司てめぇ何笑ってやがる!」
一くんの容赦ない突っ込みに、噴き出した僕を睨みつける。
いやだな、八つ当たりはやめて下さいよ、そう言いかけて左之さんとばっちり目が合う。
黄金色の瞳が「もしかして、まずいこと言っちまったか?」なんて問いかけて来るから、満面の笑みで返した。
別に左之さんは悪くないよ。
ただ、どこかの誰かさんが面白いだけだから。
僕の上を横滑りした左之さんの視線が、眉間に深いしわを刻んだ土方さんに止まる。
「おい、左之助!てめぇも何憐れむような目で見てやがんだ」
「あ、いや……悪ぃ」
「誰かさんが五月蝿いお陰で平助がいなくて静かだなんて言ってられないよね」
ね、千鶴ちゃん。
きょろきょろしながら会話を聞いていた彼女に振ると、曖昧に頷いて言葉を濁す。
遠慮しないで土方さんが五月蝿いって言っちゃえばいいのに。
「総司、余り困らせるんじゃない」
はいはいと生返事を返しながら僕は徳利に手を伸ばした。