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04 夏氷:沖田総司


どたどたどたと喧しい足音が部屋の前を通り過ぎて行った。

昼でも夜でも新八さんの足音はいつだって喧しい。

口を開けば声も大きくて、寝ている時ですら鼾が五月蝿い。

年中騒音をまき散らすあの人は、人生の中で静寂に身を沈めている時間なんて幾らもないんじゃないかと思う。

暫く奥の部屋から騒がしい声が聞こえていたと思ったら、また喧しい足音が近づいて来て、元来た方へと戻って行った。

少し間を開けて、それを追うようにぱたぱたと軽い足音が続く。

ほんと、五月蝿いなあ。

ゆっくり昼寝も出来やしない。



遠くから戻って来る小さな足音が聞こえたから、彼女が部屋を通り過ぎる少し前に盛大に咳き込む振りをしてみた。

案の定、足音は僕の部屋の前で止まる。

そして、遠慮がちな彼女の声が僕を呼んだ。



「沖田さん、入ってもいいですか?」



「うん、起きてるよ」



わざと辛そうな声で応える。

そうだよ、入っておいで。

過保護な誰かさんに一日中部屋に押し込められて、僕は退屈なんだ。



「まだ熱は下がりませんか?」



布団の傍らに膝をついた彼女が心配そうに眉尻を下げる。

きっと、僕は弱り切った病人に見えるんだろう。

伏し目がちに首肯しながら弱々しく笑んで見せた。



「微熱なんだけど、食欲がなくて」



「そうですか――どんなものだったら食べられそうですか?」



私に作れるものなら、何でもお好きなものをお作りしてきます!

使命感に燃えて、そう力説した姿に内心でほくそ笑む。

うん、そうこなくっちゃ。



「そうだね。何か冷たいもの――夏氷なら食べられるかも知れないね」



「な、夏氷……ですか」



流石に屯所で夏氷は作れない。

だって、屯所には氷もなければ、氷を細かく砕く道具もないんだから。

かと言って、ここから一番近い甘味処で買ってきても、僕の部屋に辿り着く頃には半分以上融けちゃってるだろうね。

なつごおり、なつごおり、と呪文のように繰り返す千鶴ちゃんは、眉間にしわを寄せて考え込んでいる。

答えは簡単なのに。

悩ませるのも可哀そうだから助け船を出してあげた。



「別にここで夏氷を食べたい訳じゃないよ?例えばほら、僕が甘味屋に行くとか」



僕の言葉に、彼女が瞠目する。



「だ、駄目ですよ!だって沖田さんは熱があるんですよ?第一、土方さんの許可が下りる筈ないじゃないですか」



うん、そうだね。分かってる。

でもね?



「でも、千鶴ちゃんが一緒に来てくれるって言うんなら、あの土方さんでも許してくれるんじゃないかな」



だってきみはあの鋼道さんの娘さんなんだから。

怪我人病人の調子なんて、素人の土方さんなんかよりずっと分かるでしょ?



「冷たい夏氷を食べたら、きっとすぐにでも元気になると思うんだけどな」



「でも、熱が」



渋る彼女の後頭部に手を回す。

ぐっと引き寄せて、彼女の額に自分の額をくっつけた。



「お、沖田さん……?!」



「ほら、ほんの微熱でしょ?」



あわあわと慌てふためく彼女を至近距離で見上げる。

いい子だから、ね。

そんな気持ちを込めて。



「――っ、土方さんにお聞きしてきます」



駄目だって言われたら、諦めて素直に寝てて下さいね!

赤い顔のまま、彼女は立ち上がる。

ひらひらと緩く手を振ってそれを見送った。



ちゃんと許可をもらって来られたら、ご褒美に一番大きな宇治金時を買ってあげる。

練乳と餡子の載った豪華なやつを一緒に食べよう。

だから頑張ってきてよ、千鶴ちゃん。


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