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01 餡蜜:原田左之助


部屋で隊服の手入れをしていたら、風のよく通る広間でしてはどうかと井上さんが言って下さった。

喜び勇んで繕い物と裁縫道具を抱えて部屋を後にし、広間の隅を陣取る。

風が通る分、部屋よりもずっと涼しいけれど、やはりじわりと額には汗が滲んだ。



「お、繕い物か。精が出るな」



通りかかった原田さんが、すたすたと大股で広間に入ってきた。

ふわり、流れるような仕草で私の隣に腰を下ろす。

その隙のない動きとは裏腹に、大きな体躯を折り畳むようにしてしゃがみ込む姿は、親に叱られた子供が膝を抱えて丸くなっているそれと似ていて可愛らしい。

思わず頬が緩んでしまった。

そんな自分に少し慌てる。

急いで顔を引き締め、ちらり、隣の原田さんを窺った。

よかった、気付かれていないみたい。



「何か手伝う事――って、それでもう終いか」



「はい、これで」



お終いです。

そう答えながら、ぱちんと端糸を切った。

手早く畳んで既に手入れの終わったものに重ねる。

まだお天道さまの温もりが残る、洗い立ての隊服からは懐かしい香りがした。

綺麗な浅葱色は、青空をそのまま切り取って染め付けたみたいだ。

颯爽とした雰囲気の皆さんによく似合っている。



「じゃあ、皆さんのお部屋に戻してきますね」



隊服の山を抱えて立ち上がったら、横からひょいと奪われた。



「こいつらは俺が片付けてきてやるから、千鶴は裁縫道具部屋に戻して玄関で待ってな」



にこにこにこ。

穏やかな笑顔が私を見下ろす。



「さっき島田さんに、餡蜜の美味い店教えてもらったんだ」



隊服の礼に一杯どうだ?

片手で盃を煽る仕草を真似る原田さんの姿に笑みが零れた。

ぜひ、と答えて裁縫道具の片付けを始める。

じわっと暑い大通りを眺めながら食べる冷たい餡蜜を想像しただけで、心持が涼しくなったような気がした。


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