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02


いつもみたいに不機嫌そうに眉根を寄せて、土方さんが忙しそうに右から左へと廊下を横切る。

その姿が廊下の真ん中に差し掛かったあたりで、同じように右から一くんが現れた。

土方さんの背中を見つけて、追いつこうと少し歩調を早める。

二人の姿が左の角に消える寸前に、今度は千鶴がまた廊下の右側から現れた。

頬を少し上気させてきょろきょろしながら慌てて廊下を渡る。

三人の姿が消えてから、こっそり総司の横顔を窺い見ると、それはもうキラキラと輝いていた。



「……総司」



「ん?」



「面白ぇもんって、あれか?」



「うん、そう」



無邪気な笑みがぱぁぁと輝く。



「ただ土方さんが通り過ぎて、一くんが通り過ぎて、千鶴が通り過ぎるだけじゃねぇか」



「そうだけど、平助は面白くないの?」



「面白くねぇよ。すっげー普通じゃん」



「平助はまだまだお子様だね」



「なんだよ、歳そんな変わんねぇだろ!」



「うるさいな、ちょっと黙ってなよ」



廊下に目線を戻した総司は、またぞろ真剣な顔になる。

今度は誰が来たのかと思えば、左の曲がり角に消えた土方さんが戻ってきていた。

土方さんが通って、一くんが通って、潤んだ瞳の千鶴が通る。

先程と順番を変えずに三人が通り過ぎた。



「?」



そして、またすぐに土方さんが戻ってくる。

今度は一くんが土方さんのすぐ後ろを歩いていた。

そして、一くんの背中を熱っぽく見つめながら歩く千鶴。

三人が、目の前を横切っていく。



「??」



四度目に土方さん、一くん、千鶴で縦一列に並んで廊下を渡って行った時――遂に俺の混乱した脳内が音を立てて故障し始めた時、背後から笑いを含んだ左之さんの声がした。



「お、やってるやってる」



あいつらも毎日毎日飽きねぇよなぁ。

可笑しそうにそう呟いている。



「左之さんも気付いてたんだ」



「気づかない方が無理な話ってんだろ――いや、こいつは気づいてねぇみたいだな」



こいつ、と俺のことを指して言う。

ぐりぐりと髪をかき混ぜる手が痛い。

左之さんは自分が馬鹿力だって自覚してくれねぇといってぇんだっつの!



「なんだよ、左之さんもあの三人がウロチョロすんの見てて面白ぇのかよ」



「そうさな――ま、見方によっちゃ面白ぇかな」



「見方?どんな見方だよ?勿体ぶってねぇで教えてくれよ!」



「――カルガモの親子だよ」



答えたのは左之さんじゃなくて、総司の方だった。

カルガモ?

確かに、土方さんの後を追い回す一くんと千鶴の姿は親の後ろを追い回すカルガモの子供に見えなくもないけど――



「だからってそれの何が面白ぇんだよ?」



二人の意図が一向に分からない。

そんな俺を尻目に、くりくりと目を見開いた総司と左之さんはお互いの顔を見合っている。



「お子様にはまだ早いってことだね」



「だな」



やれやれ、と二人はため息を吐く。

一体何だってんだ。



「千鶴ちゃんの気持ちに気付かないようじゃ、平助もまだまだってことだよ」



飽きちゃったし昼寝でもしようかな。

そう言って面倒臭そうに立ち上がった総司は、さっさと自室に引き上げて行った。

左之さんもそれに続く。



「ちょ、総司!左之さん!ちゃんと教えてくれよ!」



頭ん中を疑問符で一杯にしたまま取り残された俺の前を、またあの三人が横切って行った。



(だから一体何だってんだよ!)


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