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03


ほんの僅かな時間を無駄にするのも惜しくて、苛立つ指が震える。

ようやく両足を結わえ終わった俺の足元にふっと影が落ちた。

見上げると、人懐っこい黄金色の瞳がにこやかにこちらを覗き込んでいる。



「よう、早ぇじゃねぇか。こんなとこでどうした?」



「左之さん!」



この人なら力になってくれる。

そう思った。

一人よりも二人だ。

本当なら新八っつぁんや一くんにも手伝って欲しいけど、中に戻って皆を説得する時間すら勿体無く感じられる。

とにかく左之さんに事の顛末を話して協力を乞おう――と口を開いたら、左之さんの後ろから見慣れた桜色がぴょこりと顔を出した。



「あれ、平助くん。どこか出掛けるの?」



「千鶴!」



探していた筈の当の本人が急に顔を出したものだから、驚くのも無理はない。



「お前、出てったんじゃ……」



「え?」



くりくりと愛らしい瞳が不思議そうに揺れる。



「なんだ平助、待ち切れなくなって俺らを迎えに来たのか?」



お前も可愛いとこあるじゃん。

くつくつと笑う左之さんに「ほい、お前の分」と手渡されたのは、掘り返したばかりの土の匂いがするたけのこだった。



「た、たけのこぉ?!」



「なんだ?お前、たけのこ苦手だったか?」



「そ、そうじゃねぇけどよ……」



納得がいかない。

そんな思いが腹の中に溜まって、ついつい膨れっ面になる。

ふくれっ面になっていたら、背後からとんとんと控えめな足音が聞こえてきたので平助は飛び上った。

こ、この足音は――



「お帰りなさい、雪村くん。獲物は沢山ありましたか?」



「あ!山南さん、ただ今戻りました。見て下さい、大収穫ですよ」



千鶴は無邪気な笑顔で担いだ籠を山南さんに見せている。

二人の会話から、夜の巡察に出ていた山南さんが見つけたたけのこ林へ、日中動けない彼の代わりに千鶴と左之さんが派遣されていた、という単純な話らしい。

日の出前に見送ったって、そういう――

重いでしょうから勝手場までは私が運びますよ。

そう言ってとん、と玄関に降り立った山南さんの白い足袋が視界の隅に映った。

だらだらだらだら。

嫌な汗が背中を伝う。



「ところで」



誰が人間の心を手放したか、後で私の部屋でゆっくりとお聞かせ願えますか、藤堂くん。

そう言いながら微笑んでいるであろう山南さんを俺はついぞ見上げることが出来なかった。


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