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01


「平助くん、父様が見つかったの!」



飛び込んできた満面の笑みに、胸がずきりと痛んだ。

俺の手を取ってぴょんぴょん飛び跳ねる千鶴に、良かったなって言って一緒に喜んでやりたいけど、でっかい重石を乗せられたみたいに身体が動かない。



「だからね、私、江戸に帰ります」



平助くんにもお別れを言いに来たの。

その言葉ひとつひとつが重石になってどんどん俺の身体の上に積み上がっていく。



「今までお世話になりました。元気でね」



そう言ってくるりと踵を返すと、彼女は駆けだした。



「……っ、千鶴、待て!」



ようやく喉から飛び出した声に千鶴は足を止めて振り返った。

俺は安堵して駆け出そうとしたけれど、また、ぞろ足が鈍ってその場から離れられない。

可愛らしく小首を傾げて、千鶴は小さく手を振り、ずっと遠くで彼女を待っている小さな影に向かってまた走り出した。

小さくなっていく彼女を見ていると、胸がどんどん苦しくなる。

なぁ、千鶴、俺まだお前に言ってないことがあんだよ。

勝手に江戸に帰っちまうなんて、あんまりだ。

待てよ、待てって千鶴。



「千鶴――!!!!」



「……け、おい、平助!お前、何寝惚けてんだ?」



突然頭の中で新八っつぁんの苦笑交じりの声が弾けたから慌てて飛び起きた、



筈だった。

身体が動かない。



「ぐ、ぬぬぬ……って新八っつぁん!」



なんだぁ、なんて眠そうな声の新八っつぁんは、俺の腹を枕代わりに寛いでいた。



「お・も・て・ぇ!っつの!」



筋肉がたっぷり詰まっているであろう頭を邪険に追い払い、床に転がす。

ようやく肺が開いたところで、慌てて酸素を求め空気を吸った。

まじ死ぬかと思ったし……

額を打ったらしい新八っつぁんは、口を尖らせてぶつくさ文句を言っている。



「いってぇな。こっちはお前がうなされてっから心配してだな「うなされたのは十中八九、新八っつぁんが俺の腹の上で寝てたからだと思うんだけど」



ジト目で見下ろしてもどこ吹く風の涼しい顔だ。



「それにしたって、随分うなされてたじゃねぇか。千鶴ちゃんがどうかしたか?え?」



そうだ、千鶴だ。

ただの夢だって分かっちゃいるけど、なんか千鶴の顔見ねぇと落ち着かねぇ。



「ごめん、新八っつぁん!後でな!」



「あ、おい、平助!」



起きるなら布団くらい上げてけー!

そんな新八っつぁんの叫び声を聞き流して、勝手場に急ぐ。



「おい、千鶴!っと……一くん?」



「朝餉まではまだ時間がある。何用だ」



「飯が欲しくて来た訳じゃねーよ。千鶴は?」



「さあな。今朝はまだ見ていない」



「そっか、ありがとな」



お礼も早々に切り上げて、今度は道場に向かう。

近頃、隊士たちと一緒になって道場で小太刀の稽古をつけてもらっている千鶴を何度か見たことがあった。



「千鶴、居るかっ?!」



「あれ、平助。今日は早いね」



「総司、千鶴知らねぇ?」



「さぁ?それよりもさ、ちょっと相手してよ」



まだ寝惚けてる彼らじゃ準備運動にもならないんだよ。

そう言ってにっこり笑った総司の足元には死屍累々が散らばっていた。

ほらほら、と無理矢理竹刀を握らされ、道場の中へと引き摺り込まれる。



「それどころじゃねぇんだって!悪ぃけど、また今度「口閉じないと舌を噛むよ!」



「え?ちょ」



どん、と床を踏む鈍い音と共に、真っ黒な笑顔が間合いを詰めて来る。

繰り出された小手を咄嗟に身体を捻って弾いたら、傾いだ頭に容赦なく面を打ちこまれた。

相当、痛い。

目の前をちらちらと星が飛ぶ。



「そ、総司……ちょっとぐれぇ手加減「油断してる平助が悪い」



そりゃそうなんだけど。

なんだってこいつ、今日はこんなに機嫌悪ぃんだ?



「さ、もう一本」



「えぇ?!まだすんのかよ」



「たった一本で何言ってるの」



「だから俺は――ちょ、待て総司!防具なしで突きは、ぎゃあああああああ」


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