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薄桜鬼 方音録


「そん女鬼はおいのもんだ」



影のように静かに現れた彼――風間さんは、開口一番そう言った。

いつの間にかぐるりを薩摩兵に取り囲まれている。



「おぞえなよ、こなぁ!千鶴にまがんなや!」



さっきまで優しい笑顔を浮かべていた原田さんが、一変して険しい顔で立ち塞がる。



「原田さん……」



「いうたろ?守っちゃるって」



前を見据えたままの原田さんが早口にそう言った。

私を背後に隠すようにして立つその背中はとても大きい。



「援護するわなもし!」



「後ろはうちらに任せておくんなはれ!」



「島田さん……山崎……ああ、任せたけん!」



島田さんとと山崎さんの登場で、場の空気が更にびりりと張り詰めた。

じわじわと私達を囲う人の輪が狭まる。

轟っと一際強い風が吹き付けたのを合図に、睨み合っていた原田さんと風間さんが互いに向かって跳躍した。

思わず両手で目を塞ぐ。



「やめねが!」



キン、と金属がぶつかり合う鋭い音がした。

残響が消えても、そこには不自然なほどの静寂しかない。

恐る恐る目を開くと、二人の得物を両腕で受け止めて立つ天霧さんの姿があった。



「天霧け。邪魔立てするならお前でん許さねが」



風間さんが凄まじい殺気を抑えもせずに天霧さんを睨み据える。



「遊んでいるとっでなあいもはん。さあ、藩邸に帰いいが。あんしが待っちょいおいもす」

その言葉に風間さんは忌々しそうに舌打ちをして剣を納めた。



「次な必っ迎えに来っ、待っちょいいろ。こわ、行っぞ」



先に歩き出した風間さん達の後を追うようにして、薩摩兵達もこちらを警戒しながら駆け出した。







薩摩兵の姿が完全に見えなくなってから、私はほっと大きく息を吐き出した。



「よかった……原田さん、ありがとうございました」



「なんちゃ、かまんのよ」



そう言って、原田さんはくしゃりと頭を撫でてくれた。

大きな手はいつも通り優しくて、それが更に私を安堵させる。

ふと、急に原田さんが今どんな表情をしているのか確かめたくなった。

そっと顔を見上げると、ぱちりと目が合って、どちらからともなく微笑む。



「千鶴……」



私の名前を呼んで、真顔になった原田さんの掌がさらりと頬を撫でた。

ゆっくりと、私を閉じ込めた穏やかな黄金色の瞳が近付いてくる。

なぜだか恥ずかしくなって私はそっと目を閉じた。

甘い呼吸を肌に感じ、そして――







「あのさぁ、いい雰囲気のところ悪いんだけど」



慌てて私達は飛び退いた。



「お、沖田さん」



「うん、僕だよ」



いつからそこに居たのだろう。

至近距離で私達を眺める沖田さんはにやにやと邪悪な笑みを浮かべていた。



「さっきの会話全く聞き取れなかったから、最初っから全部解説してくれない?」



「は……」



口を開き掛けて諦めた原田さんはがっくりと肩を落とした。


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