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青イ春


※原田視点の平→主



「じきに宵山だな」



祇園祭の最中で活気づいた京を漫ろ歩きしながら左之介は誰に言うでもなくそうごちた。

市中の彼方此方では宵山に向けて出店の屋台が組まれ始めている。



「千鶴ちゃん、きっとこっちの祭りは初めてだろ?」



連れてってやりたいよな。

新八は機嫌良く笑う。



「うわ、今年は千鶴に酔っ払ったオジサン達の相手させるのかよー」



「誰がオジサンだって?」



本気で嫌そうな顔をする平助を笑いながら小突き回す。



「お、噂をすれば」



少し先に浅葱色の集団が見えた。

その中に小柄な桜色が見え隠れする。



「おーい、千鶴ちゃーん」



ぶんぶんと音が聞こえそうな程激しく両手を振り回す新八に気付いた少女は、はにかみながら小さく手を振り返した。

左之介も軽く手をあげる。

組を抜けて、斉藤と千鶴がこちらに向かって来た。



「こんにちは!お出掛けですか?」



「おうよ!千鶴ちゃんは巡察の同行だな!親父さんのことでなんか分かったか?」



全然、と少女は困ったように眉尻を下げて笑む。

このところ毎日のように巡察について市中を回っているが、消息を絶った父親の足取りは思うように掴めていないらしい。

監察方でも綱道さんの行方は追っているが、此方もからきしとなれば、誰かしらの『足取りを追わせたくない』という思惑が透けて見えるような気がしてならない。



(考え過ぎ、だよな)



縁起でもない思考を振り払うように左之介はゆるゆると頭を振った。

それと同時に千鶴の平助を呼ぶ柔らかい声が耳朶をくすぐる。

輪から少し離れたところでそっぽを向いていた平助が慌てたようにそれに応えた。



「お、おう、千鶴か!」



まるで今気付いたと言わんばかりの反応がわざとらしい。

が、それに気付かず「平助も間抜けだなぁ」なんてからかう新八も新八だ。

当の千鶴も、平助の不自然な態度になんの疑問も抱いていないようだった。



平助の視線が追っているものに気付いたのはつい最近だ。

一度気付けば、今まで気付かなかったのが不思議なくらいに分かりやすい。

いつだって目だけで千鶴を探しているくせに、いざ近くに来ると知らんふりをする。

幼い友人のそんな姿が青臭くてむず痒くて、微笑ましかった。



「何を言う、平助。先程、俺と一緒に此方に向かう雪村を見て――っ!」



平助の嘘を指摘しようと口を開いた斉藤の肩に手を置く。

自分の唇に人差指し指を当て、それ以上何も言わないよう示した。

いぶかしむような斉藤の視線を受け流しながら、平助の肩を抱く。



「なんだよ左之さん」



左之さん体温高ぇから、くっつくとあっちぃし!

唇を突き出してそう抗議する横顔に口を寄せる。



「祭に千鶴誘ってやれよ」



「へ?なななんで俺が!」



慌てふためく姿が可笑しい。

笑いを噛み殺しながら、真面目な顔を作る。



「おまえが誘わなきゃ、新八が誘うぞ?さっき自分で言ってたじゃねぇか。千鶴に酔っ払って絡む新八の相手させんのか?」



去年のおまえみたいに、と言い足す。

途端に平助の顔が青くなった。

左之介の知らないところで余程の辛酸を嘗めさせられたらしい。



「ああありがとな、左之さん。俺、千鶴に声掛けてくるわ!」



そう言い残して駆け出した平助を半笑いの顔で見送った。

慌て過ぎて足元が覚束なくなったのか、千鶴に辿り着く寸前で派手に転んだ。

羞恥と焦りに青くなったり赤くなったりする平助に千鶴が駆け寄る。

それでまたあわあわするもんだから、相当な初心だ。

そんな平助の気持ちに全く気付かない千鶴は、いっそ清々しいほどの鈍さと言ってもいい。



「最近の平助は明らかに挙動不審だな」



黙ってそれを眺めていた斉藤が冷静な感想を呟く。



「何か他人に言えぬ悩みがあるのかも知れん。隊務中の事故に繋がる可能性もある。一度、副長に相談せねば」



生真面目にそうごちた斉藤に左之介は盛大に吹き出した。

当たらずしも遠からず、だが――

またひとつ頭痛の種が増えたと頭を抱える土方の姿が容易に想像できる。

報告の結果を聞かされた平助が目を白黒させる姿も。



(確かに、挙動不審ではあるけどな)











(平助、おまえその分かりやすいのもうちょっとどうにかしねぇと、ゆくゆくは総司の玩具だぞ)


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